ビデオ 試写室◆ ビデオ評 76 「サムソンとデリラ」装いを新たに、低価格で登場!

「サムソンとデリラ」
古川第一郎
日本キリスト改革派 南越谷コイノニア教会牧師

 「力の用い方を、まちがえることもあるからな」。村の長老アイラが、サムソンの父マノアにつぶやいた言葉です。

 男の力、女の美しさ。どちらもよいものですが、間違って用いられたためにもたらされた悲劇。これが怪力サムソンと美女デリラの物語でしょう。何が間違っていたのか?この映画はヒントを与えてくれています。

 ペリシテに占領されて40年。たびたび襲う略奪隊に対して、武器もなく、逃げ場もなく、皆殺しに会う村人たち。ペリシテ人への怒りが爆発寸前にまで来ていました。そこに神によって特別な怪力が与えられたサムソンが登場。皆がサムソンを中心に反乱軍を作って反撃しようと提案します。しかしサムソンは平和を愛する人。誘いに乗りません。

 しかし、度重なる残虐行為に、ついにサムソンも立ち上がり、力を振るいます。そこから、はてしない「報復の連鎖」が続いて行きます。

 腕力では、サムソンに勝てる者はいません。しかし、ペリシテの将軍タリクは、サムソンの弱点を見抜きました。彼の中に抑圧されている肉欲。ここを攻撃するために選ばれたのが、『オースチン・パワーズ』の美人女優エリザベス・ハーレイ演じるデリラでした。彼女の美しさと優しさに包まれた九日間。夢のような日々。純粋な彼は、彼女を本気で愛します。「この人だけは信じられる」。この信頼感までデリラの妖計の一部だったとは…!

 秘密を打ち明け、自分を守ろうともしないサムソンの顔は、信じられる人に出会った安らぎに満ちています。その彼の髪をいきなり切るデリラ。悲鳴を上げるサムソン。こんな哀しいシーンがあるでしょうか!

 肉欲に負けたサムソン?しかしそれ以前に、復讐心に動かされてガザへ旅立ったことがまちがいでした。人の怒りは、決して神の正義を実現することはないのです。

 目がつぶされ、奴隷となるサムソン。しかし「彼の髪は伸び始めていた」と聖書にあります。物理的に髪が伸びればまた強くなるのではなく、力を奪われたときに、初めてほんとうの「力」を学んだのです。演出と台詞でその別の「力」が伝えられています。

 サムソン役に『ダウン』でスパイを演じたエリック・タール、ペリシテのタリク将軍役に大俳優のデニス・ホッパー。音楽は映画音楽の巨匠エンリオ・モリコーネ。そして監督が、カンヌで話題をさらったニコラス・ローグ。この監督独特の生々しい部分はカットされています。脚本は、『天使の贈り物』でナット・モールディンと共にペンを取ったアラン・スコットが書いています。1949年に作られたセシル・デミル監督の同名作品よりも大型の178分(約3時間)の大作です。