書評Books 食の向こうに愛が見える

貫井南町キリスト教会 牧師夫人 橋本美智子

『季節で彩る こころの食卓 英国伝統の家庭料理レシピ』
山形優子フットマン 文
斎藤久美 写真
B5判・定価1,100円(税込)
フォレストブックス

イギリスの料理やお菓子作りに関心のある方にとっては、またとない貴重なハンドブックとなり、そうでない方にとってもページをめくるごとに心が温められるような癒やしの一冊でもあります。
本書は、在英四十年の著者山形優子フットマンさんが、イギリスの家庭や教会で受け継がれてきた料理やお菓子のレシピを季節ごとに整理して、ふんだんに紹介してくれています。

そればかりでなく、本書のすばらしさは、レシピの間に、愛と人生の知恵にあふれたエッセイがセットになっているところです。料理やお菓子にまつわる思い出や、出会った英国女性の信仰や生き方を聖書の言葉とともに、優しく語りかけます。

たとえば、「お菓子の定番“ヴィクトリア・サンド”」の章では、こんなエピソードが書かれています。友人のサラが、ふわふわに焼いたケーキを携えてお茶に来ます。著者は、その秘訣を教わるのですが、サラはふと心の悩みも打ち明けます。やがて涙を拭って笑顔をのぞかせたサラの話を聞きながら、著者はコリント人への手紙第二、一二章九節の聖句を思い出します。そして、「人生の最後、どんな自分が出来上がるのか、ご存じなのは『愛』というかまどの火で、私たちをきよめてくださるイエス・キリストだけです」(本文四四頁)と、しめくくっています。

さらに私の心をとらえたのは、さわやかな空気感や温度さえ伝わってくるような美しい写真の数々です。

「おわりに」には、写真を担当されていた斎藤久美さんのことに触れ、「最後のコラムの撮影をすべて終えた、その冬のクリスマスイブ、久美さんは遠く光る天の星となりました」と記されているのです。写真のひとつひとつが、本書に託した斎藤さんの遺言のように感じられます。
作者おふたりの愛に彩られた本書は、手に取る私たちに、たましいの栄養をもたらしてくれるに違いありません。