ずっこけ宣教道 第5回 中国篇

松本望美
北朝鮮宣教会所属

 中国と北朝鮮の国境沿いの町。北京に戻るには、たいてい夜遅く出発する汽車に揺られることが多かった。

 吉林省。雪の降る寒い夜。人もまばらで静かな待合室。

 すると、遠くから女性の叫び声が聞こえてきた。

 その声はどんどん近付いてきて、二人の女性の叫び声だとはっきりとわかった。さらに、二人の姿が待合室に入ってきたかと思えば、取っ組み合いのけんか中だった! 一人の女性は相手の髪の毛を引っ張り、片方は胸ぐらをつかんでいる。そして、ギャーギャーと甲高く叫び合っているのだ。まるで動物園の猿山のような騒ぎだ。仲介に入った男性もすっ飛ばされた。

 構内アナウンスが流れる。うるさくて聞き取れないが、私の乗る汽車ではなさそうだ。

 汽車が入ってきて、待合室のドアが開き、数人がプラットホームへ向かったのだが、その取っ組み合いの二人もギャーギャー言いながら、くっついたままプラットホームへ出ていく。そして、汽車の中に入り込み、汽車は出て行った。

 シーンと静まりかえる待合室。唖然と口を開けたままの私……。

 ある日、始発のバスを待っていた。運転手は新聞を広げ、ひまわりの種をかじっている。足元にはガラス瓶にお茶が入っている。まだ当分出発しそうもない。

 そこで「すいません、何時に出発しますか」と聞いてみると「二時だよ」と言う。運転手の頭上の時計は一時半。

 ここは中国ですからね……と私も覚悟を決めて車窓を見ていた。

 すると、しばらくして運転手が新聞を畳み、ひまわりの種をしまった。そして、お茶の瓶のふたを閉め、不意に立ち上がった。そして、頭上の時計の針をクルクルと二時に合わせたのだ! 運転手は何もなかったかのようにエンジンをかけ、バスは出発したのだった……。

 今年、教会のメンバーで中国を訪問した。朝食は、近くのファーストフードへ。人数分のお粥と肉まんを注文し、テイクアウトした。ホテルに向かう途中で「あれ? お粥が少ない」と気づいた。一つ足りない。「その分、揚げパンが多くない?」と言われ、見てみると、揚げパンが注文数より数本多い。

 「きっとお粥は売り切れで、返金する代わりにお粥の代金分を揚げパンで帳尻合わせしたんだ!」さすがだ。

 日本人の私たちにとって、中国の日常は本当にマンガのようだ。異文化体験にはもってこいだ。

 また、この国がキリストとともに歩んできた道には、いつも感動させられる。

 決して平坦ではなく苦しい道でもあるのだが、その半面、大きなうねりがある。

 地下教会に集っている兄弟姉妹から学ぶことは本当に多い。

 あのうねりの中に飛び込んでみるのは、いかがですか?