あの時代、勝海舟はキリストに何を見たのか ◆BOOK レビュー

シュー土戸ポール
青山学院大学文学部 准教授、宗教主任、学院宣教師

勝海舟は、近年においても時代劇や小説などでたびたびその人生が取り上げられている。彼の働きで特に知られているものは、江戸・田町の薩摩藩邸で西郷隆盛と行った江戸城開城の交渉であろう。明治維新後は、旧幕臣の中心的存在として外務大丞や兵部大丞、元老院議官に任官され、さらには参議兼海軍卿、枢密顧問官も歴任している。
この勝海舟が、イエス・キリストへの信仰を告白したというのであろうか。本書には、勝海舟とキリスト教との意外な関わりが示されている。
勝海舟は、オランダ語を学んでいた若いころからキリスト教と聖書に触れる機会があり、讃美歌の翻訳にも関わった。明治維新以前からキリスト教に寛容であり、遣米使節団でのアメリカ派遣時は、サンフランシスコで定期的に礼拝出席している。この勝海舟のキリスト教に対する好意的な態度と篤い信頼が、キリシタン禁制の取り下げに反映されていることが本書で指摘されている。さらには、ホイットニー家との交友の中で、海舟の心に「いのちとしての宗教」が浸透していったこと、そして人生を全うし、死期が迫った勝海舟が医師ウィリス・ホイットニーに、「私はキリストを信じる」と告白したという証言が示されていくのである。
勝海舟の周囲には、いかにキリスト者が多かったか、そしてこれらの人々との出会いと関わりが、いかに大きな影響を海舟に与えていたかということが見えてくる。読み進めるうちに、海舟の平和主義者・博愛主義者的な考え方やその働き、周囲の人々との関わりが、キリスト教という視点で一つにまとまっていき、新たな視点から歴史を理解できることに気づかされる。そして、幕末と明治維新の時代、さらには当時の国際的時代背景を理解するために、キリスト教がいかに重要であるかということにも気づかされるのである。
本書は、歴史研究としての貢献に加え、一般読者が興味深く読める内容となっており、守部氏の豊富な執筆経験が現された著書であるといえる。特に日本史や日本のキリスト教史に関心のある方々にとっては興味深い内容であり、このような新しい視点から日本の近代化や日本におけるキリスト教の歴史を見るのは、非常に有意義であろう。

『勝海舟 最期の告白』
守部喜雅 著
フォレストブックス 1,000円
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