『赤毛のアン』と聖書のことば
―『アンが愛した聖書のことば』著者インタビュー ◆それまでとは違ったアンの物語

現在、NHK朝の連続テレビ小説「花子とアン」では、『赤毛のアン』の翻訳者が取り上げられている。『赤毛のアン』の魅力にクリスチャンとして迫った『アンが愛した聖書のことば』の著者、宮葉子さんを訪ねた。

『赤毛のアン』の著者、モンゴメリと同じく、牧師の妻である宮さん。かまぼこ兵舎を再利用した緑の屋根がかわいらしい教会、日本オープン・バイブル教団、墨田聖書教会は、東京スカイツリーの見える町にある。地域の人たちからも愛される下町の教会だ。礼拝堂は多くの本であふれていた。
「小学生のとき、駅前にあった『ひつじ書房』という児童図書専門店と図書館に行くのがとても楽しみでした。その『ひつじ書房』で出会ったのがラベンダーカラーの装丁の赤毛のアン・シリーズです。大人っぽくて美しいたたずまいに心がひかれました。お小遣いを握りしめ、緊張しながら買いにいったことを今も覚えています」と語ってくれた宮さん。当時住んでいた神戸の町で『赤毛のアン』と出会った。その後、親の転勤などで何度か引っ越したが、この本だけはしっかりと荷物に収め、今も大切にしている。
宮さんは子どもの頃から、ひとりの存在が周りに希望と変化をもたらしていく物語が好きだったという。孤児であるアンという女の子の存在が、周りに喜びをもたらしていく。まずは家の中から、やがて、近隣、学校、そしてコミュニティーへ……。
「時代を超えて読み継がれる〝子どもの本〟には、根底に普遍的な人間の真理が描かれていると思います。『赤毛のアン』は、女の子が日常で失敗をくり返しながら成長していく物語ですが、決して説教臭くはありません。押しつけがましさはみじんもなく、アンと一緒に笑ったりほろりとしたりしながら、読み終わってみると、手のひらに何か素敵なきらめきが握りしめられているというような魅力があります」と、楽しそうに語る。「アンは意固地ですが、自分の失敗を最終的には認めるし、そのあたりが魅力なのでしょうね。アンは最初から美人な存在なのではなく、だんだんと素敵な女性に成長していきます。それがいいんです。彼女には知的な輝きがあるのです」

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『赤毛のアン』の魅力について、聖書のことばから探る宮さんの著書の中では、墨田聖書教会に『赤毛のアン』が好きな大人たちが集まり、読書会を開いたようすも生き生きと記されている。
「大人になり、クリスチャンとなって『赤毛のアン』を読んでみると、自然とみことばがいくつも浮かんでくるのは面白い体験でした。人生の機微を知るにつれ、主人公のアンだけでなく、例えばマリラやマシューなど、ほかの登場人物の心情にも関心を持つことができます。アンを育てるマリラの心情の変化を追うと、それまでとは違った物語が見えてきます」。さらに、著者の生涯や執筆当時のようすを紹介したり、物語に出てくるようなケーキやテーブルセットなど、アンの世界を演出するのも大人ならではの楽しみ方だ。主人公になりきって、疑似体験する楽しさが読書の醍醐味だが、大人になると多様な読み方ができる。それを称して「大人読み」と呼ぶようになった。宮さんの著書のサブタイトル「『赤毛のアン』を大人読み」は、ここからきている。
「本を読みたくても、読む時間がなかなか取れない人でも〝子どもの本〟なら読めるのではないかと思いました」二〇一一年、〝子どもの本〟を「大人読み」する読書会を始めた。初めのうちは、地域の人やその友人が中心だったが、今ではブログやツイッターの告知を見た二、三十代の女性も遠方から参加するようになった。
当初はテーマとなる本を最後まで読んで参加するメンバーはほとんどいなかったが、それではつまらないことに気がつき、次第に皆が最後まで本を読んでから参加するようになったという。「さまざまな世代の人たちが集まって、話すことができるのも読書会の素晴らしさですね」
まずは大人が読書の魅力に気づくことで、子どもたちも本を読むようになるのではないか、という期待もある。

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中でも『赤毛のアン』シリーズは、教会の文化や牧師が描かれることも多く、クリスチャンならくすくす笑ってしまうエピソードがたくさんあるという。「聖書からの引用が多く、著者も牧師夫人です。そのことが、長年愛されているこの物語の魅力とどのようにつながっているのか、あらためて考えてみたいと思いました」
宮さんは、『赤毛のアン』に織り込まれた聖書のことばを形にしてみたいと、日本で出版されているさまざまな翻訳版を読んだ。くり返し読み、物語を深く味わっていくと、「モンゴメリは、聖書の教えを啓発しようとして『赤毛のアン』を書いたのではないと感じました。むしろそういうアプローチを嫌っていたのではないでしょうか。しかし、聖書に親しんでいる人は、モンゴメリが大切に考えている信仰の本質のようなものが、丁寧に織り込まれていることに気づくと思います。原書や翻訳書を読み比べると、あちこちに聖書のエッセンスがちりばめられているのがわかるのです。聖書の価値観が生活の中にまで落とし込まれている作品なのだと感じました」その「大人読み」をもとに、宮さんは著書を出版した。「かつて女の子だった、すべての大人女子に、あのころの素直なときめきを思い出してもらう手助けとなればうれしいです」

宮 葉子さん
東京都国立生まれ。立教大学卒業。会社員、出版社勤務を経て、現在は東京・墨田区の墨田聖書教会で「pray&hopeプロジェクト」を主宰する。

*「牧師館のお茶会」
http://annestea.exblog.jp/

「大人のための子どもの本の読書会」
http://booksheepbook.hatenablog.com/

小学生のときに買った『赤毛のアン』は今でも大切にしている
今を生きる私たちの暮らしに役立つ聖書のことば30篇。聖書の魅力を語る味わい深いエッセイ。「ごはん」が人の力になるように、聖書のことばは日々の糧となる。
『こころのごはん』
宮葉子著
四六変型判 160頁 1,000円+税