ウツと上手につき合うには 第10回 「ノー」をはっきりと


斎藤登志子

 あなたは「ノー」をはっきり言えるでしょうか。私が子育てをしているときに特に気をつけたのは、「ノー」をはっきり言える子にするということでした。それは、いじめや虐待を防止するという意味もありますが、私のように心の病になってほしくないと願ったからです。

 うつ病の人に共通することは「ノー」がはっきり言えないということです。自分の嫌なことや自分の責任外のことに対してもはっきり断ることができないのです。こういう人のことを専門的にはバウンダリーが明瞭でないといいます。自我がはっきりしていないのです。

 日本にはもともとバウンダリーという概念がありません。「ノー」とはっきり言うのもはばかられるような風潮があります。そのため、多くの人は親と子、夫と妻、また友人といった関係の中で、完全には自立しないで共依存的な関係になっていることが多いのです。そして、本来は本人がやらなければならないことにまで口を出したり干渉して、人の責任まで負ってしまいます。また、それが愛だと勘違いして相手のためにいろいろやって自立を妨げていることに気づかないでいたりするのです。

 たとえば母親がうつ病で家事ができないとしたら、家事を代わりに行うのは家族の役目です。それを寝込んでいる母親が起きてきて無理に家事をこなそうとするのは家族を甘やかしていることになるのです。私がクリニックで家事ができないと医者に嘆くと、医師は家族を甘やかすのはやめなさいと言いました。病気だからできないということを家族にはっきり伝える必要があるのです。これもひとつの「ノー」です。

 「ノー」をはっきり言うことは、相手を傷つけるのではないかとか、わがままではないかと心配する人がいますが、できないことまで引き受けたり、嫌なことに無理に付き合ったりするほうがよっぽど迷惑をかけているのです。自分の責任の範囲と、能力や時間でできることを考えて仕事を引き受けるようにし、できないことは人に頼むようにしましょう。

 アニメ「ドラえもん」の幻の最終回というのをご存知でしょうか。

 ドラえもんが未来に帰らなくてはならなくなりました。それを知ったのび太くんは、自分が強くならないとドラえもんが安心して未来に帰れないと思います。そこで、今まではいじめっ子のジャイアンにいじめられると、いつもドラえもんに泣きついていたのび太くんが、どんなにいじめられてもひとりで果敢にジャイアンに立ち向かっていくようになるのです。のび太くんはドラえもんから自立して、はじめて「ノー」ということを学ぶようになるのです。もっともアニメはまだ続いているので、ドラえもんとのび太くんの共依存関係はまだ続いているのですが。

 私たちもここまでドラマチックでなくとも、自分の責任範囲ではないことや自分に害を及ぼすものに対して、小さなことから「ノー」ということを学んでいく必要があるでしょう。


あなたを守ることば

あなたが言いたくても、どうしても言えなかったことば。
相手を傷つけると思って、決して口に出さなかったことば。
ほんとうは、あなたを守ってくれることばなのに。

短いことばです。
簡単なことばです。
「ノー」と言ってください。
「いやだ」と言ってください。
「できません」と断わってください。

無理につきあわなくていいのです。
できないことは断わっていいのです。

だれにだって限界があります。
気力も、体力も、能力も、時間も。

自分のすべてを犠牲にするほど価値のあることは
それほど多くないはずです。

ほんとうに大切なこと以外は「ノー」と言いましょう。
どうしてもあなたでなければできないこと以外は「ノー」と
言いましょう。
もっと働くようにとせっつく自分にも「ノー」と言いましょう。

「ノー」はあなたを守ってくれる、大切な、大切なことばです。


(『傷つきやすいあなたへ』木村藍 著、文芸社より)