書評books 福音による自己の再発見
『自己を忘れる自由 真の喜びに至る道』
ティモシー・ケラー著 ウォーカー美枝子訳 橋本哲哉監訳
B6判 70頁 定価770円(税込) いのちのことば社
メルボルン日本語キリスト教会牧師 福田真理
多くの人が生きがいを追求し、自己実現にチャレンジしますが、本当に幸せなわけではありません。メルボルンには人生の変化を求め、自分探しをする大勢の若者がやって来ますが、なかなか思いどおりにはならないようです。本書は「神の恵みによって根底の部分で変えられた心について語り」、福音に基づく「自分を忘れる自由」が意義深い人生をもたらすことを示しています。著者は、現代人の葛藤に光を照らす福音中心的な説教と都市における教会開拓運動で世界宣教に貢献したティム・ケラーです。アイデンティティや自尊心について、福音に基づく全く新しい視点を与えられることでしょう。
本書は驚くべきメッセージを伝えています。自分を忘れることこそが、本当の幸せの入り口だと言うのです。私たちの自我の自然な状態は空っぽで、傷んでいます。忙しくて、壊れやすく福音以外の何ものによっても満たされません。真の自己を見出すのは自尊心の回復でも、謙遜になることによってでもありません。パウロが「あなたがたにさばかれたり……自分をさばくことさえしません」と言うように、聖書はどんな種類の罪や業績にも自分のアイデンティティを結び付けないように勧めているのです。多くの場合自尊心を保つために自分に集中するよう助言されますが、結局優越感と劣等感を行ったり来たりする不安定な自己を見出すだけです。すべての人に福音が必要なのです。
福音によれば、キリストの十字架の死によって究極的な判決が決しているので、信じる者はどんな評価からも自由で平安があります。「あなたはわたしの愛する子、わたしはあなたを喜ぶ」というキリストのアイデンティティが私たちのものになるからです。その人は正当な批判があれば葛藤しますが、絶望したり自己嫌悪に陥ることなく、むしろ成長の機会とします。他の人が称賛されれば妬まずに心から喜べます。福音が形作るアイデンティティがあるので、もはや自分のことを心配する必要がありません。心の余裕は隣人愛のために時間や労力を用いるように働くでしょう。本書は自分探しに忙しい現代人にオススメの一冊です。