書評books 私たち自身の 荒れた「風速」が見えてくる

『私の「風速計」』

『私の「風速計」』
崔善愛著
B6判 194頁 定価1,980円(税込) いのちのことば社

日本基督教団 荻窪教会牧師 小海基

書名の「風速計」とは、『週刊金曜日』誌の巻頭言のタイトルです。私自身も創刊以来同誌の愛読者であるからこそ思います。二〇一九年から崔善愛さんが編集者に加わったことで、他のどの人にもまさって辛口のコラムが発信されることになったな、と。一言を書く背景にどれほどの重荷と思いを重ねてきたことか。「ウクライナ侵攻」、「ヘイトの嵐」、「君が代強制」……と、気づかずに通り過ぎてきた私たち自身の荒れた「風速」が見えてきます。

崔さんの本業はピアニスト。それも「神よ、あなたはおいでになるのですか! おいでになるのなら、どうして復讐してくださらないのですか! ……まさか神よ、あなたもロシア人なのですか!」と一八三一年に手紙に綴った(本書六〇、一一七頁)ショパンの、「Zalジャル幻肢痛」(一二九頁)と自らを重ねる演奏者です。同級生を見回しても「音楽大学二年になるまで、自分のピアノを持ったことがなかった」(一一〇頁)という中で、ようやく二十六歳で米国留学という道が拓けた善愛さん。二十一歳で「指紋押捺拒否」をしたことを理由に「再入国不可」とするこの国の人権無視、不条理が突きつけられます。それに対する闘いに十四年間投げ込まれ、偽りの「恩赦」を拒否し、「指紋押捺制度廃止」を勝ち取る先頭に立つ歩みが語られます。

「朝鮮半島で生まれ、そこに根っこがある一世。だからこそ『民族』という言葉が言える。日本しか知らない者にとって、『民族性』という言葉ほど、残虐なものはない。そう思った」(一八〇頁)と一方で語りながらも、自分の父である崔昌華牧師の信仰と闘いを受け継いでいく姿は圧巻です(本書後半のⅡ部冒頭の「一九四六年、十六歳の父――北から南へ」)。

決してクリスチャン向けの雑誌でない『週刊金曜日』の多くの読者が、崔さんの言葉に心動かされ、響かせる音楽や生きざま、信仰に打たれて、私たちが無意識に吹かせている私たちの社会の荒れた「風速」、「風向」に気づかされる名コラムです。「地の塩、光」と生きようと志すキリスト者必読の書です。