書評books 自分を愛することが苦手な現代人のための解放の本
飯能の山キリスト教会 牧師 中村 穣
『真の自己となる旅路 歪んだ自己イメージからの解放』
豊田信行 著
四六判・308頁
定価2,530円(税込)
いのちのことば社
現代には、自分を認めてほしいという思いが蔓延しているために、健全な自己愛が見えなくなっているように感じています。なんでも自分で選択できて、決断できることで自己を肯定する―本書は、歪んでしまった自分のイメージを、のぶ先生が優しく溶かしてくれる旅路の本です。
キリストを愛するなら、自分を捨てなければならない。
確かな信仰があれば、神様に何でも正しく答えられるはずだ。そう思いがちなクリスチャンに、のぶ先生は「自分の人生をうまくコントロールする」のではなく、「自分の人生をコントロールすることから自由になる」よう推奨します。
信仰の歩みの中で何かにつまずくと、「まだ自分を捨てきれていない」と考え、そういう自分を愛せない私たちに、のぶ先生は健全な自己愛を、自分を捨てきれるようになるという自己執着ではなく、そんな自分のあり方から自由になり、父なる神様に立ち返る解放の道だと教えてくれます。
自分を愛することが苦手な現代人に、本当の意味で「自分を愛する」とは、この解放の旅路の中で真の自己を見つけ、聖霊の導きによって神の似姿へと変えられていく過程だという視点が紹介されています。目標を達成できたかどうかで自分を計るのではなく、聖霊が導く自己へと進む過程こそが大切だと、のぶ先生は強調しています。この過程は、こうありたいという自己を達成する道ではなく、途中経過の自分をも神様は見捨てずに共に歩んでいてくださると再確認していく道です。
自分が変えられてから始まる信仰の旅路ではなく、変えられていくことが信仰であると分かると、希望が与えられます。真の自己を喪失し、自己を偽り続けるゆえに、主の十字架のもとへ進み出ることができないで苦しんでいるからです。神様はすべてのものを良しとして創造され、私たちに対して「もっと良くなる」(二〇三頁)と期待し続け、信頼関係を持ち続けてくださる神様です。
本当の自己とは「神の作品としてのわたし」。神の作品としてのわたしへと聖霊によって導かれていく過程、これこそが霊的形成の道であると、本書は教えてくれるのです。