書評books 〈私〉から始める平和への旅路
日本メノナイト帯広キリスト教会 牧師 伽賀由
『カイロスブックス
平和へのはじめの一歩 対話と共生の道』
朝岡勝 著
四六判・114頁
定価1,100円(税込)
いのちのことば社
小さな本なのに、力強い。そう思ったのは、著者である朝岡先生が平和作りのためにできることを〈私〉という足下から覚悟して始め、歴史と社会の現実に向き合い、自身の霊性を深め、牧師として、まず教会に向けて具体的な方法をもって平和の福音を宣べ伝えているからです。
これまで教会が「平和あるいは平和づくり」を語ろうとすると、どうしても政治運動か福音か、リベラルか保守かの二者択一の問いから抜け出せずにきたのではないかと思う。確かに個人的なことは政治的なことだが、キリスト者がスローガンを平和づくりの基盤にすると必ず枯渇し、それを続ける教会は社会に吞み込まれてしまう。キリスト者も教会も信仰の事柄として平和を語る言葉を練る訓練が必要だが、朝岡先生はそれを非暴力コミュニケーション(NVC)の手法を紹介しつつ、読者を対話の作法へと招く。
一章から五章まで本書は教会のどの世代からも読みやすく、近年の社会事例を示しながら、読み手が自分事として平和を考えるきっかけを与えています。
特に評者が感銘を受けたのは、最後の付録の講演後の質疑応答部分です。教会の葛藤を示す各質問に、朝岡先生は真摯に共に歩むように言葉を紡ぎます。そこにNVCの作法を用いつつ語られる私たちキリスト者の対話とは、祈りとともに聖霊が双方の霊性に働かれ、AでもBでもない、キリストを通して神が与え給う平和への道・和解へと導かれることを朝岡先生自身が証しします。私たちが主イエスの平和をつくる〈ピースメーカー〉になるには、「忍耐の熟成」が必要であることを思いました。
評者は本書がきっかけとして、日本のキリスト教会の〈社会派・福音派〉という壁が取り除かれることを祈ります。日本の教会が自分の立場を気にしている猶予はない。「教会が世界の最後の砦だと」信じている朝岡先生の言葉にアーメン!と泣けたのです。