書評books キリストの愛を現す牧会者の説教集
立川福音自由教会 牧師 高橋秀典
『真の礼拝と教会の召し』
N・T・ライト 著
鈴木茂、鈴木敦子 訳
B6判・208頁
定価2,200円(税込)
いのちのことば社
本書は、世界的な神学者N・T・ライトが、一九九四年に四十六歳でイングランド中部の伝統的なリッチフィールド大聖堂の首席司祭に就任して以来の礼拝説教の記録です。
最初に、「私は礼拝について……神の美について話す」という表現から、神が私たちの崇拝の気持ちを呼び起こすに値する方であると述べます。さらに「神の美しさは、愛の美しさです」と述べながら、神学と礼拝を切り離せない関係で理解する必要を強調します。小生は一九九七年に初めてライト先生の講義を聞くことができましたが、個人的に「先生の神学的な洞察は誰の影響を受けているのですか」とお尋ねしたところ、先生は優しい眼差しで、「私はただ繰り返し繰り返し聖書を読み、聖書自体から教えられている」とお分かちくださいました。二〇一六年にスコットランドでお会いしたとき、神学議論に関心の薄い小生の妻も、先生の包容力に満ちた温かさに心から感動していました。
ときに、先生の著作の一部を読んで、それが宗教改革の伝統的な神学解釈を否定しているように批判されることがありますが、この説教集を読むと、聖書の基本教理を神への畏敬の思いから、どれほどバランスをもって語っているかが明らかになります。たとえば、「三位一体を信じるとは、真の神は熱情的で、あわれみ深い神であると信じることです」というように、礼拝の視点から神学を論じます。
またキリストの受肉や十字架、復活の意味を、聖書はこの世の世界観を変える革命的な意味を持っているという視点から解き明かします。そこで彼は「癒し人こそ社会全体で必要とされている……私たちが弱いときこそ、私たちは強い」という現実に適用できる信仰生活の逆説を解き明かします。キリスト者の生き方が、この世的な成功を目指すものではなく、キリストに倣って徹底的に社会の必要に応える、人々の根本的な悩みに寄り添う、革命的な仕える姿勢であるべきことが大胆に勧められます。まさに先生は鋭い神学者である前に、神の民を整える最高の牧会者であることが、この説教集を通して明らかにされます。ライトへの評価を根本的に見直させる最高の入門書と言えましょう。