書評books 聖書を読む力を鍛えるために

聖契神学校教務主任 山﨑ランサム和彦

 

『聖書解釈のリテラシー 神のことばを読み取る力』
南野浩則 著
四六判・224頁
定価1,980円(税込)
いのちのことば社

 

南野浩則先生が二〇二〇年に出版された『聖書を解釈すること――神のことばを人の言語で読む』(いのちのことば社)は、福音主義の立場から聖書解釈の理論について書かれた優れた入門書として、神学校の聖書解釈学の授業でも教科書として使わせていただいています。この度、その応用編とも言うべき本書が出たのはまことに喜ばしいことです。
タイトルの「聖書解釈のリテラシー」とは、副題に「神のことばを読み取る力」とあるように、聖書が駆使する様々な文学的な工夫(レトリック)を認識して、そのメッセージをしっかりと受け取る能力といえます。本書は①テクストとしての文脈、②聖書の文学性、③歴史・時間の概念、④旧新約聖書の関係、⑤価値観の衝突という主題に分けて、豊富な実例を挙げながらそのような「解釈力」を養う手引となっています。
本書を通読して印象に残ったのは、著者の聖書に対する深いリスペクトです。聖書を神のことばとして重んずるとは、聖書がどのような性質の書物であり、どのように働くのかを見極めて、それに従った読み方をし、応答していくことです。
そのような努力を怠って、私たちが持っている聖書観を一方的に聖書に押し付ける読み方(ナイーヴな字義的解釈や多様な声を無理に調和させようとする読み方等)は、一見聖書を尊重しているように見えて、実際にはそのメッセージを歪めてしまっている可能性があります。
聖書を読む際には謙虚に聖書の声に耳を傾け、それに合わせて私たちの読み方そのものも変えていく必要があります。それこそ本当の「聖書信仰」です。
本書はある意味で「危険」な本です。読んでいくうちに、聖書に関する様々な先入観(私たちが当たり前のように前提していること)がチャレンジを受ける可能性がありますが、それは聖書解釈のリテラシーを鍛える絶好のチャンスだと思ってください。信徒の方から神学生や教職者まで、広くおすすめしたい一冊です。