書評books マルコの声を聴く信頼の釈義
東京神学大学特任准教授/日本ホーリネス教団中山キリスト教会牧師 河野克也
シリーズ 新約聖書に聴く
『マルコの福音書に聴くⅢ だから、目を覚ましていなさい』
中島真実 著
B6判・408頁
定価3,080円(税込)
いのちのことば社
本書は中島真実先生がご自身の牧会される基督兄弟団一宮教会で、二〇一一年秋に主日礼拝で語ったマルコの福音書一一章から一四章の講解説教を文書化したものです。シリーズ三巻目となる本書は、主イエスのエルサレム入城からゲツセマネでの祈りまでを扱い、当時の状況を背景にマルコの福音書の独自の声を丁寧に読み解くことで、主イエスに従うことが当時の信仰者たちにとって何を意味したのか、また現代の私たちに対して何を語りかけているのかを明らかにする優れた聖書講解となっています。先生のご専門は組織神学ですが、新約聖書学におけるマルコ解釈の成果を踏まえ、深い信仰に導かれて的確な解釈を提示していることに、一新約学徒として感動を覚えます。
特に本書の説教72〜78では、いびつな終末論的解釈の犠牲になることの多い一三章の主イエスの言葉(「小黙示録」とも呼ばれる)を、ローマ軍によるエルサレム包囲と神殿破壊というマルコの福音書執筆当時のコンテクストの中にしっかり位置付けて読み解くことで、救いの完成を待ち望む信仰者が持つべき健全な信仰の姿を描き出します(冒頭の「はじめに」でしっかり読者に注意喚起していますね)。ローマの残虐な支配と対極をなす平和の王なる主イエスの姿は、説教58「ザ・ピースフル・ライダー」、59「平和の王のパレード」で鮮明に描き出されます。また83、88~90では、つまずく弟子たちの姿を通して、なおも立ち直らせてくださる主イエスの憐れみ深さが浮き彫りにされます(説教58〔本書一八頁〕の「弱材要所」と通底しますね)。
中島先生は東京聖書学院の後輩であり、場所は違いますがメノナイト派の神学校に留学し、平和神学の土台を共有する仲間です。個人的な交わりの中では、先生が常に言葉一つ一つを丁寧に紡ぎ出す姿が特に強く印象に残っていますが、この説教集のどのページからも同様に、神の言葉と説教の言葉に対する誠実さが伝わってきます。(でも語り口は意外に軽やか?)
最終巻が待ち遠しい!