書評books 時代を超え、共鳴し合う女性たちの物語
『もうひとつの「若草物語」 初邦訳者・北田秋圃を探して』
小松原宏子著
B6変型判・128頁 定価1,650円(税込) いのちのことば社
元 学生相談室・心理カウンセラー 竹原きみ
一九世紀中ごろにアメリカで出版されて現在もなお世界中で読み親しまれている「若草物語」(原題Little Women, L・M・オルコット作)が、日本ではその四十年後の明治時代に初訳され、しかも翻訳者は「北田秋圃」という合同ペンネームを持つ三人の女性の合作であったことがわかった。
少女時代から「若草物語」の愛読者でもある著者(児童文学作家、翻訳家)は、この初邦訳者「北田秋圃」の謎をぜひとも明かしたいという研究意欲をもって「検索の旅」を開始した。その手がかりは「北田秋圃」なる三人の女性の記念写真一枚と、写真の中の一人の名前が「高橋なほ子(直子)」と記入してあったことだけだった。したがって検索は「高橋直子」から始めたが予想よりは困難を極めた。
そもそも検索力というのは、得られた情報の質と信頼性を見抜いて必要なことだけを抽出する力のことである。著者は国立国会図書館をはじめ日本中の役所、資料館への問い合わせの書簡、訪問、インターネットなどでの照会を繰り返し、わずかな情報をも無駄にせずに続けた。そしてやっと三年後に一縷の光を見出すまでに至った。
本書では、その実際の過程が詳しく書かれている。情報に行き着くまで一喜一憂しながらの箇所もあるが、その検索力のすごさと、著者自身の持ち前の柔和なお人柄によるところの大きさを感じる。
『若草物語』は、アメリカの南北戦争時代を背景にキリスト教信仰に支えられた女性たちの生き方に品位と力強さが生き生きと描かれ、読む人の胸に心地よく響く。
他方「北田秋圃」なる三人の女性も、明治の文明開化の時代に英語塾で学び、時の文豪(坪内逍遥や饗庭篁村ら)が身近にいたうえに、キリスト教信仰にも支えられて明治時代を生き抜いてきたと思われる。
そして著者自身も、この「若草物語」に魅せられた初邦訳者に共鳴し始めているように思われるので、まだ半ばでもある「北田秋圃」の研究をさらに続けていただくことを願う。