『和と旅する。』制作裏話
『和と旅する。 日本の近代看護の先駆者』
フォレストブックス編集室編著
四六変型判・96頁
定価1,650円(税込)
いのちのことば社
『和と旅する。』メイン執筆担当 編集ライター 熊田 和子
「大関和? 誰それ?」
歴史研究者でも教師でもないけれど、そこそこ日本のクリスチャン人物を知っているつもりになっていた。特に明治期の女性の生き方に感銘を受けて、少しは本も読んでいた。しかし今回の「トレインドナース大関和」は、不覚にも初めて聞いた名前だった。
たしか昨年六月頃、来春の「NHK朝の連続テレビ小説」のモチーフ大関和を急きょ本にすると編集部で決まった時、周囲の誰もその名を知らなかった。それから「チーム和」で手分けして、猛烈な勢いで史料調べが始まった。
ドラマの原案となっている小説『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる著/中央公論新社)は、著者も言われているとおりフィクションも多い。物語としては楽しく読める感動作だけど、私たちの「旅するシリーズ」は、史実を伝えるものとして続けてきたので、とにかく一次史料に当たらなければ成立しない。しかも、本人の信仰にどれだけ迫り、近づけるかがポイントになる。
史料を調べ始めた当初、さらなる懸念材料が浮かび上がってきた。鮮明な写真も少なく、本人にまつわる場所には現存する建物も遺品もほとんどない―果たして、これまでのようなビジュアル本に仕上がるのか?
しかし、続々と集まってくる史料を調べれば調べるほど、読めば読むほど、心熱く純粋で一筋、強い意思に基づいて行動する和の人物像がくっきりしてきた。そのベースにあるのは、聖書のみことばと祈りだということもダイレクトに伝わってくる。時に感情過多になり、周りが見えなくなって勇み足とも思える行動にもしばしば驚いたが……。
和の生き方や信仰姿勢は、ビジュアルをしのぐに十分な力強さと方向性を示してくれた。そこから、どんなビジュアルにすればいいかも導き出されていった。
また、史料によって記述があまりに異なっている点も、「チーム和」で何度も話し合い、そのたびに関係各所に問い合わせた。
そういった面でも、神は多くの助け手を用意してくださっていた。かなり個性が強いけど、和のことになると話が止まらなくなる大田原市の郷土史家の方。日本キリスト教婦人矯風会資料室の梶原恵理子さんは、以前は女子学院で長年資料室の責任を持っておられ、綿密に調べて集めた貴重な資料を提供してくださった。新潟の高田では、知命堂病院や教会関係の方々が思わぬ素材をたくさん見せてくださった。二回目の大田原市訪問では、和の実弟のひ孫に当たる方にもお会いできた。その他、看護の専門家や新宿中村屋の広報部、東大病院に至るまで、当初の手探り状態では予想もしなかった「情報の網」が広がっていったのである。
和のパワーに巻き込まれて
「歴史人物のスピリットがあなたに伝わり、それが読者に燃え移るようにしっかりやりなさい」
かつて大先輩から頂いたこの言葉を、和ストーリー執筆の時も念頭に置いて―と書き進めたが、結果的には和のパワーに巻き込まれ、引っ張られてついていくのがやっとの感じで書き上げたようなものだった。また、和を理解して支えた周囲の信仰者たちの深い愛と関係性は、本を制作する「チーム和」にも多くの影響を与えてくれたと思う。
歴史ものは特に現場に足を運ぶことを基本としている。しかし、取材の始まりがちょうど真夏に差しかかる頃。歴史的な暑さだった昨夏、大田原市をはじめ灼熱の都内各地を何度も行き巡るのは楽しいだけではなかった。
和が六年を過ごした新潟の高田に行ったのは、九月末の台風シーズン。スタッフ二人で足跡を求めて広範囲を歩いている時、突然の大雨・大風に見舞われた。服や靴だけでなく大事な資料も何もかもぐしゃぐしゃになる。ホテルで、一枚一枚引きはがすようにしてドライヤーで乾かしながら復元を試みた。
そして二回目の大田原と那須取材は一月半ば。私たちが行く、人が踏み入らない神社や墓地などには前日降った雪がたくさん残っていた。
ようやく春めいてきた頃に本が出来上がってみると、大風や大波のような人生を歩んだ大関和にふさわしい制作だったのかもしれない。
多くの史料の一部しか掲載できないもどかしさに、「本のサイズがもう少し大きかったら……」と「チーム和」では何度かつぶやいた。しかし、和の人としての器の大きさや波乱の生涯は、どんな本であっても収まりきらない。きっと、神の御手の中にしか収まらないのではないかとしみじみ感じている。