書評books リーダーの人間的な支配欲 「成功のための手段」への警告
日本基督教団仙台宮城野教会牧師
異端・カルト110番共同代表 齋藤 篤

『新使徒運動の危険なパン種 教会が〝カルト化〟しないために』
坂本兵部 著
A5判・160頁
定価1,650円(税込)
いのちのことば社
今般、畏友である同労者・坂本兵部牧師が『新使徒運動の危険なパン種』を上梓されました。新使徒運動というキリスト教界を取り巻くムーブメントに対して、この本は必ずしも「新使徒運動の専門的な解説書」ではない、ということを最初に申し上げたいと思います。そのうえで、新使徒運動を含む「教会におけるカルト化」の本質を問いかけ、私たちにとって「健全な信仰」とは何かについて、あらためて考えさせる機会を与える一冊であると私は受け止めました。
坂本牧師はかつて、いわゆる「ゆがんだ弟子訓練」の被害者として、主イエスの弟子ではなく、指導者たる牧師の人間的な支配というものを苦痛のうちに経験された当事者です。その経験によって、同様に不健全な支配構造によって苦しんできた数多くの信仰者を、主と共に歩む人生へと導く援助者として歩み、現在に至っています。そのような経験値があるからこそ、新使徒運動にも共通する流れを認識し、その認識に基づく丁寧な分析がこの本の随所になされています。
坂本牧師は、教会におけるリーダーシップを持つ者として、教会形成のための様々なメソッドを、決して成功のための「手段」としてはならないと言及します。つまり、人間的な支配欲という罪の根本原理を充足させるために、新使徒運動にしても弟子訓練にしても、それを「利用・悪用」することがあれば、それはキリストの教会ではなくなってしまう。あくまで神の国が建てられ、ただキリストの栄光が輝くという「目的」のために、主の弟子として歩むのだというリーダーのあり方を、自己批判的につづっています。そういう意味では、この本は健全なリーダーシップ論の解説書であるとも言えるでしょう。
また、このテーマに沿って、日々の牧師としての働きのなかで取り次がれた礼拝メッセージや講演録も収録されています。この一冊を手に取れば、真摯にキリストを愛する坂本牧師の息づかいというものを、きっと感じることができるでしょう。
 
					