書評books いま読んでほしい平和構築の実践家による平和学の教科書

日本キリスト教会・東京告白教会 長老 小塩海平

 


『カイロスブックス
今、「平和」とは何か 戦後八十年のキリスト教平和学入門』
豊川慎 著
四六判・104頁
定価1,100円(税込)
いのちのことば社

 

著者である豊川慎さんの母方の祖父は、陸軍飛行隊の少尉としてフィリピンに派遣され、ルソン島で米軍捕虜となった片山弘二牧師である。BC級戦犯にされたキリスト者、中田善秋とともに捕虜収容所内で発足した「ラグナ信友会」で指導的な役割を果たした方であり、「マレーの虎」と怖れられた山下奉文大将の絞首刑に立ち会うという稀有な経験をもつ牧師であった。豊川さんの平和学との取り組みは、このような強烈な体験を持つ祖父からの記憶の継承が背景となっている。
私は、豊川さんが中心となって調査が進められていた中田善秋研究会に加えていただき、親しい交わりを与えられてきた。豊川さんは、関東学院大学や明治学院大学で平和学の教鞭を執る教育者であり、「キリスト教倫理の課題としての核兵器廃絶と平和構築」、「南アフリカにおけるアパルトヘイト教会闘争」、「河井道における平和思想」など、広く平和に関わる学術論文を執筆している研究者である。さらに二〇二三年十月十九日に大会で決議された日本キリスト改革派教会の「平和の福音に生きる教会の宣言」の起草/解説に関与された長老であり、理論家でありつつ平和構築に関わる活動家として注目されている。
本著は、そのような平和構築の実践家が記した教科書であり、「戦後八十年のキリスト教平和学入門」という副題が示すとおり、平易な文章で書かれた平和学のテキストである。「正しい戦争」というキリスト教戦争観の考察、イスラエル・パレスチナ問題や沖縄、日韓関係、南アフリカから考える平和問題、戦争の記憶の継承と平和教育、核兵器廃絶とキリスト教、日本のキリスト教会の戦争責任と罪責告白、平和的生存権と政治的課題としての平和構築などのテーマが、十二章にわたって読みやすい文章で解説されている。
章末にさらなる学びのための参考文献が掲げられているのも、大学の教員らしい配慮である。若いキリスト者に一読をお薦めしたい。