書評books 戦後日本の底辺の状況に福音の光を当てる働きの記録
日本基督教団隠退教師・前日本基督教団総幹事 秋山 徹
『新版 いと小さく貧しき者にコロニーへの道』
深津文雄 著
四六判・312頁
定価2,750円(税込)
いのちのことば社
この書は、千葉県館山市にある婦人保護長期収容施設「かにた婦人の村」の創設者、深津文雄牧師の自伝の再版である。
売春防止法制定により行き場を失った女性たちの終生の安息の住処となるコロニー建設に至る奮闘の物語を中心に、戦後の日本復興の中で忘れられた底辺の状況に福音の光を当てる働きの貴重な記録である。
ドイツの福音主義教会に起こったディアコニッセ〈奉仕女〉の運動に深く触発されて、日本でも献身した奉仕女とともに「ベテスダ奉仕女の家」を立ち上げ、「かにた婦人の村」に先立つ東京都の婦人保護施設「いずみ寮」形成となり、これが、さらに発展して、「かにた婦人の村」のコロニーの形成と働きを支える中心母体となるに至る。
「婦人の村」発足間もなくして記された著者の活き活きとした記憶と感動、三女・紅子さんの死や家庭の支え、その時代を担った様々な人物との出会いと交流、聖書学やバッハの研究など、時代を切り開く多才な活動も交えて、文章は走り、今読んでも飽きさせない。
一読して感じるのは、国家や社会の体制、既成の教会の在り方に対して、鋭い反発や批判を抱きながら、終生、少年のような心で求め続け、立ち向かい続けているものが深津文雄牧師の内に流れていることである。それは、ありきたりの福祉活動や慈善事業への関心というよりも、天地の造り主なる神と、その神によって造られた尊い人間に向けられた愛、十字架を担ったキリストの心に深く呼応するもので、純真に、一心にそれに従おうとしたものを感じさせる。
創設六〇年を経た現在の「かにた婦人の村」の継続、その精神をどのように受け継ぐか、重い課題となっていると思う。この少年の心に呼応する大河の流れが、これを読む者の心にも流れ込み、新たな志を呼び覚ますように。