書評books すべてが失われても神の選びがそこに息づく
八尾福音教会牧師 道本純行
『ぼくを忘れていくきみと アルツハイマー病の妻と生きる幸せ』
吉田晋悟 著
B6判・定価1,650円(税込)
フォレストブックス
「百万人の福音」の中に、吉田晋悟さんの証しを発見したのは大阪市内を走る地下鉄の中であった。いたく感動したので、すぐその場で彼に電話をした。「感動した、恵まれた。僕も君のように妻を愛するよ」。それは私の心の中のことばであったような気がする。私たち夫婦も吉田さん夫婦とよく似た年代で、日本福音教会の同労者である。夫人が若年性アルツハイマーを発症されたことはよく知っていたが、彼ら夫婦がこんなにも懸命に向き合って、共に密度の濃い人生を歩み出していたことは知る由もなかった。
このたび、好評連載が書籍化されたことはとても嬉しいことだ。アルツハイマー病と言っても、発症者にはそれぞれ個人差があるということは周知のことである。この本で第一に感じたことは、これは同疾患のガイドブックと言えるのではないかということだ。吉田さんはまず、奥さんが神が尊い目的をもって世に送り出された存在と位置づけ、その人格をどこまでも尊重する姿勢を貫いている。そしてあらゆる機会を生かしてその病いの情報を集め、しっかりと分析する努力をしている。その上、医師や専門職にある方々を深く信頼している姿がありありと見られる。
第二にこの本は、結婚のガイドブックとも思った。吉田さんは本書でも、招かれた講演会でも「『……その健やかな時も病む時も、これを愛しこれを敬いこれを慰め、そのいのちの日の限り堅く節操を守る』ことを神様に約束した」と言う。主がいつも私たちと共におられるように、彼もいつも奥さんと共にいた。これから夫婦になろうとする人も、もう長く夫婦である人もぜひ読んでいただきたい。また、神への献身を志している人も益とするところは大きい。
第三に本書は、信仰生活のガイドブックとも言えよう。自身の限界、愛の葛藤を感じるときに、いかにみことばの中で立ち行くかを学ばされる。そして他者に対するパストラルケアもくみ出せる。
最後に、これは考える能力すべてが失われても、神の選びがその中に息づいていることも証しする物語である。