特集 「百万人の福音」から生まれた不朽の名対談
「百万人の福音」で同時期に連載をしたことがきっかけとなり、対談が実現した詩画作家の星野富弘さんと、作家の三浦綾子さん。二人の出会いから生まれた珠玉のような対談集『銀色のあしあと』(1988年初版刊行)は、今も読み継がれるロングセラー。さわり読みをどうぞ!
三浦 病気をしてね、失ったものもあるけれど得たものも多いって、私も思うし、あなたも書いていらっしゃる。
星野 数を数えれば、比べものにならないくらい、得たもののほうが多いんじゃないかと思います。おそらく怪我をしなかったら……やっぱり今頃は、体育の教師で、おれの性質からいうと生徒を引っぱたいたとか、反対に引っぱたかれたとか、︵笑︶ そんなことで毎日、くよくよしながら生きているんじゃないかなと思うんです。(中略)
三浦 今、星野さんのなさってることは、多くの人と結びついて、多くの人の人生とかかわり合うお仕事でしょ。どれだけたくさんの人が、ほんとに力を得て生きていってるかわからない。そりゃ、つらいし、周囲の人にも苦しい思いをかけるけれど、神さまの与えてくださった道は間違いがないんだっていうか、愛なんだっていうこと信じられますよね。
星野 ええ、それはもう、本当に。なんていうか、神さまは、このおれのためにいいことしてくれたと思うんです。
三浦 「苦しみに会ったことは、私にとってしあわせでした」と、いただいた色紙に書いてあって心打たれましたけど、苦難をいいものとして受け入れたら、もうこれ以上のことはないですよね。
星野 もちろん、そのとき、そのときの小さな苦しみや悩みはありますけど、でもそれがまとまって束になると、とてもいいことに変わっちゃうんです。(中略)
どこから、いつ、どこで、どうしてというのはまったくわからないんですけど、怒ったり悩んだりしながら、いつの間にか、神さまの、ゆっくり動くベルトコンベアーに乗せられて来たような、そういう感じがします。(中略)
三浦 もう信仰のいい部分っていうか、うまい部分だけ吸って来たような気がするぐらい、神さまにお任せした人には、恵みがよくわかる。苦しい人にはよくわかる。
星野 おれが、おれみたいな者がなんでこんなによくしてもらえるのか、不思議なんですよね。よっぽど神さまはお人好しだ。
三浦 同じ気持ちがあるの、私にも。私が何をしたからとてこんなに優遇してくださるのですかって。
(『新版 銀色のあしあと』一〇二~一〇五頁)