書評books 聖書の権威に立つから愛のある議論ができる
鳩ヶ谷福音自由教会 牧師 大嶋重德
『「同性愛」二つの見解 聖書解釈をめぐる対論』
ウィリアム・ローダー/メーガン・K・デフランザ/ウェスレー・ヒル/スティーブン・R・ホームズ 共著
A5判・288頁
2,860円(税込)
いのちのことば社
学生伝道を二十数年してきました。この期間、十数人の学生から性自認、性的指向の悩みを聞いてきました。クィアの人が左利きの人の数(全人口の七%)ほどいると言われていることは、私の学生伝道二十五年のリアルな実感です。「自分の中の同性への欲求を理解できずに苦しんでいるクリスチャン大学生たちに、イエスならどう答えるだろうか」(本文五六頁)と著者の一人ローダーが語ります。健全なクリスチャンホームあるいは牧師家庭で育って信仰告白へと導かれたクィアの彼らの苦悩に、私も寄り添い続けた学生伝道でした。
本著は、聖書の権威を堅く信じている、四人の福音的な神学者たちの聖書解釈をめぐる対論です。このテーマは、冷静さや礼儀正しさの欠ける暴力的な言葉が飛び交いがちです。当事者がそこには当然いないかのような牧師会の議論に私も何度も出くわしました。それほど、同性愛というテーマは混乱しているのです。
しかし本著は、柔和で敬意に満ちた議論がなされています。どの執筆者も聖書の権威を堅く信じており、「特にこのテーマによって最も影響を受ける人々への愛」(九頁)を示そうとしている点で福音的です。「聖書の権威」に立つからこそ、愛のある議論が可能になることを教えてくれます。著者の中で最も保守的なホームズも自論を展開した上で、彼の論拠とするアウグスティヌスが「すべて間違っているかもしれない」と最後に付け加えます。聖書の権威に立つ時にこそ、解釈する人間が絶対化されないということを知っています。
また四人の一致した方向性は、クィアの人々が受け入れられるための教会の制度的変革、牧会的便宜の可能性を探る点です。この本は読まれなければなりません。現状どの立場に立つ人であっても、聖書的に自分とは違う立場に立つ人たちがいることを知るために、この本は読まれなければなりません。さらにその上で、このような柔和で敬意を払いあった主にある交わりの仕方を知るために、この本は読まれなければなりません。