書評books 今日の日本の教会へのこの上ない贈り物

明治学院大学教員 岡田 仁

 

『改訂新版 筑豊に生きて』

犬養光博 著
B6判・288頁
定価2,200円(税込)
いのちのことば社

 

初めて筑豊を訪ねたのは、評者が神学生のときでした。著者である犬養先生のお宅(福吉伝道所)に夏季実習のため二泊三日滞在させていただき、現地研修や先生の講演の聴講など貴重な学びの機会を得ました。研ぎ澄まされた一つ一つの熱い言葉に終始圧倒され、そのお人柄と生き方に深い感銘を受けました。お連れ合いの素子先生のユーモア溢れるお話と美味しい手料理のおもてなしに感動したことを、昨日のことのように想い起こします。
本書は、ガリ版刷りで地元住民に配布された『月刊福吉』(一九六五~六九年)をもとにしたものです。「筑豊の子どもを守る会」を機に著者が開拓伝道を開始した当時の福吉は、水道問題や町長選挙、教育の荒廃など大きく揺れていました。著者は自らに与えられた課題を、「『人間』を変化させていく業」と受けとめます。「人々が真に変わる場所は聖書以外にない」との確信のもとに、「神さまの愛を知ることこそが一番大切なことだ」と福音の証しを忍耐強く続けたのです(六五頁)。町の不正や住民の現実問題に対し、厳しい批判を繰り返し述べるのは、著者自身が聖書の言葉に沈思し、祈り、キリストの道に誠実に従うべく血の滲むような闘いを絶やさなかったからでしょう。聖書研究会と同時に、人々の「心の鉱害復旧」(一五四頁)、とくに「こどもたちの育成」(三一頁)が著者の生活の中心でした。さらに、教育の課題を解決する道は、筋を通すこと、初志貫徹、義の中に生きることである、と訴えます。そのためには聖書を学ぶこと以外になく(一八二頁)、それは感謝と祝福の生涯そのものだと告白されています(二五三頁)。
本書で紹介される往復書簡には、県外就職で筑豊を出た子どもたちとの人格的な交流を示す感動的な内容が随所に綴られています。
長らく絶版だった本書の改訂新版は、評者や多くの犬養先生のファンにとって大きな喜びです。そして、今日の日本の教会にとってこの上ない贈り物であると確信してやみません。