書評books 最終章「痛み」が読みどころ 巧みな構成に唸った

出版社あめんどう 代表 小渕春夫

 

『神のささやき 御声を聞きたいと切望する人のために』

マーク・バターソン 著
結城絵美子 訳

四六判・368頁
定価2,310円(税込)
いのちのことば社

 

「しかし火の後に、かすかな細い声(静かにささやく声)があった」(Ⅰ列王19・12)。聖書には、不思議で不可解な言葉が少なくありませんが、私にとってこの箇所はその一つです。そして、その神秘に魅了されてきました。しかし、この箇所を深く追求した説教を聞いたことはありません。それをテーマとした稀な本となれば、飛びつかずにはいられません。教会では、マイクを通して十分な音量で伝えることが大事ですが、神の声は微かなつぶやきで、聞こえるか聞こえないかだというのです。
本書には随所に、物理学、生物学、医学、心理学、個人のエピソードなど、バラエティに富んだ引用があり、その意外性に目が開かれ、飽きさせることがありません。傍線を引いた箇所がたくさんありますが、私が最も印象的だった一つは、「御霊の声は夏のそよ風のように優しく吹いて来るので、神との完全な交わりの中にあるのでなければ、決して聞こえることはない」(О・チェンバーズ)です。また、人間の心の分析でよく知られる「ジョハリの窓」の霊的解釈も刺激的でした。マトリクス図があれば、より分かりやすかったかもしれません。
本書で著者が紹介する神のささやきを告げる七つの言語、「聖書、願い、ドア、夢、人々、促し、痛み」は、本書の背骨をなすものです。日常生活にありながら見逃しがちな神のささやきの世界へと導きます。ここでの「願い」は、本書の副題である「切望」と読み替えてもよいでしょう。中には、大観衆に語ったとか、教会の資産が五千万ドルに達したとか(著者自身の驚きでしょうが)、アメリカ式の成功物語のように感じて少し鼻につく部分もありました。しかし、最後の第十一章「痛み」でバランスが取れました。
本書は、最後の章「痛み」で感動的なクライマックスを迎えます。ささやきという、か細い糸の端をたぐりながら、最後には信仰生活全体の深みへと導く巧みな構成に唸りました。翻訳の完成度も高く、訳注も親切で、訳者の労に感謝します。