特集 フォレストブックス ~『たいせつなきみ』から始まった25年~ What’s “Forest Books”? フォレストブックス誕生への思い

絵本『たいせつなきみ』(マックス・ルケード 著)の出版から、いのちのことば社の新たなレーベルとして、一九九八年に立ち上げられた「フォレストブックス」。その設立当初の経緯、理念、込められた思いを振り返りつつ、二十五年間で出版してきた書籍を紹介します。

フォレストブックス元編集長  鴻海 誠

フォレストブックスの二十五周年を迎え、誕生に携わった者として感慨深いものがあります。スタートから一年後、本誌に「フォレストブックスの使命」(一九九九年十一月号)と題する一文を書かせてもらったことがありました。だいぶ黄ばんだ切り抜き記事を読み返しながら、立ち上げ当時の思いがよみがえってくるのを覚えます。
その以前、私は長く月刊誌「百万人の福音」の編集に当たっていましたが、そのなかでいつも考えさせられることがありました。それは、「伝道雑誌」と銘打ちながら、実際大半の読者は信者で、一部の信者が身近なノンクリスチャンへの個人伝道に用いているのが実態でした。文書伝道のスピリットを持って作っていても、直接ノンクリスチャンに福音が届かないジレンマがあったのです。ネット通販もまだなかった時代の大手出版社中心の流通機構、キリスト教に対する社会の無関心が背景にあって、厚い壁が立ちはだかり、容易に私たちの本や雑誌が店頭に並べられることはありませんでした。自然、キリスト教専門店をはじめとする教会マーケット中心のものづくりになっていき、内向きの編集内容となっていくのでした。日本人の救いのために神様によってこの時代に立てられた、いのちのことば社の向かうところはそれでよいのだろうか。少々オーバーに言わせていただくなら、その憂いが私の心の中にありました。

主がその憂いを聞き届けてくださったのでしょうか、思いがけない道が開かれました。一九八八年、その頃「百万人の福音」に執筆してくださっていた作家の三浦綾子さんと星野富弘さんの対談企画が実現して増刊号を出し、さらに『銀色のあしあと』として書籍化され、全国の書店を通して一般読者の手に届けられることになりました。その反響はかつて私たちが経験したことのないほどすさまじく、これが十年後の一九九八年、「フォレストブックス」というレーベルで本を作り始めることになったすべての始まりでした。ルーツがそこにありましたので、「ノンクリスチャンを対象に、わかりやすく、聖書の真理を伝える」がフォレストブックスのコンセプトとなり、当初、私たちにその認識はなかったのですが、キリスト教界でプレエバンジェリズム(求道への種まき)の分野の本として位置づけられるものとなりました。
出版業界ではインプリント(imprint)と呼ばれる、一つの出版社から別ブランド名で本を出版する方法があります。対象読者などを変え、その出版社が従来から持っているカラーと異なる本を作ることによって、新しい市場を開拓するやり方なのでしょう。動機は違っても、私たちの試みも似たところがありました。フォレストブックスの誕生当時、すでにいのちのことば社は五十年の歴史があり、いのちのことば社の本として一定のカラーを持ち、暗黙の編集コードがありました。もちろん、規準があることによって、教会に信頼される本を発行できている良さはあるのですが、一方で、ノンクリスチャンに対しては不要な宗教的殻を持ってしまう側面がありました。
フォレストブックスの歴史で最も用いられた本は『たいせつなきみ』(ホーバード豊子訳、一九九八年刊)でした。この本は、「神」や「キリスト」という語が一言も出てきません。しかし、欠けだらけで孤独なパンチネロなる人形の主人公に「あなたをつくったのはわたしだ。だからあなたは、わたしにとってかけがえがない、たいせつな宝なんだよ」と語る、慈愛に満ちた創造主の存在を伝える寓話絵本です。競争社会に疲れきった人たちの心をとらえ、癒やしてくれる傑作でした。
これからを担う編集者たちが「フォレストブックスとは何か」をあらためて心に刻み、今日の日本人の心に届く本を作り続けてほしいと願ってやみません。

ロングセラー
『たいせつなきみ』
マックス・ルケード 著・セルジオ・マルティネス 絵
254×228ミリ 定価1,760円(税込)