344 時代を見る眼 小さな命と共に生きる〔2〕 親になる決意

NPO法人みぎわ 理事
松原宏樹

わが家の次男やまとはダウン症です。特別養子縁組で、4年前に、わが家に酸素ボンベひとつで来てくれました。
産まれたときは、房室中隔欠損、左心室奇形、肺高血圧症も患っており、1歳近くまで病院で過ごしました。
実母はやまとを妊娠中、検査によりお腹の子どもに障がいと病気があることを知りました。「望んだ妊娠」が「望まない妊娠」に変わる瞬間です。

それまで、お腹の子どものためにびっしりと思いが書かれていた母子手帳は、その日を境に真っ白になりました。
妊娠22週を過ぎていたので、海外で中絶しようかと思いました。何度もこのまま電車に飛び込もうとしました。妊娠を望んだことを後悔しました。そして、神を呪いました。

しかし、子どものことを真剣に考えて、私たちに相談の連絡を入れてくれました。私は言いました。「一緒に歩みますから、安心して赤ちゃんを産んでください。」

1か月早い出産でした。やまとは産まれても病気が重たくて、集中治療室で過ごしました。

第1回目の手術の日が迫ってきたとき、やまとの入院する病院から連絡がありました。「心臓手術の同意書に実親がサインをしてくれません。説得してもらえませんか。」

もし、心臓の手術に同意すると、手術が成功して健康を取り戻して、長生きしてしまう可能性があったので、実親は悩みに悩みました。
私は電話口で「その子は私が育てますから、安心して手術の同意書にサインしてください」とお願いしました。
第1回目の手術は無事に終わり、次は心臓にメスを入れる本格的な手術になります。それまでに、もう少し体重を増やして、体力をつけないと手術は受けられませんので、一時退院の時期を迎えました。

しかし、一時的であれ、この子の帰る家はないのです。この時から、わが家が親と家族をバトンタッチしました。
裁判所に特別養子縁組の申し立てをし、親になる準備、やまとが本当にわが子になる準備を始めたのです。2回目の心臓手術の同意書は私がサインしました。

ヨハネの福音書には「その名を信じた人々には、神の子どもとなる特権をお与えになった」と書かれています。血統によらずに神の子となるには、言葉以上の十字架という犠牲と時間と愛が込められているのです。そして、ここには天の父なる神様が、親になろうと決心した心が現れているのです。