書評Books 「ドア」を開いた先にある希望

金城学院高等学校・宗教主事 沖崎学

『小さないのちのドアを開けて 思いがけない妊娠をめぐる6人の選択』
永原郁子・西尾和子 著
のだますみ 漫画
A5判・定価1,870円(税込)
フォレストブックス
篠原明 著

「愛に、血のつながりがいらないことは、夫婦がいちばん知っている。」二〇二〇年度「朝日広告賞」を受賞した、このコピーが最近Twitterを騒がせた。これによって、「里親制度」や、「養子縁組」について関心を引き出された人は多い。私も、その一人。ただ、私の場合、本書と出合っていなければ、このコピーも見過ごしていただろう。

本書には、「小さないのちのドア」を開けた六人の女性が描かれている。その「ドア」とは、思いがけない妊娠によって追い詰められたり、さまざまな理由で、出産、育児が困難になった女性のために、二十四時間開いている相談窓口のこと。そこには、「未成年の妊娠。不倫や、風俗で働く女性の妊娠。妊娠中のパートナーのDV、虐待。人工妊娠中絶」などの相談がある。

本来、妊娠は、笑顔の報告であるはずなのに、この「ドア」を開く女性は皆、簡単に、誰かに相談できない理由に囲まれている。彼女たちは、頼れる人もなく、精神的に独りぼっちで、時には経済的に困窮し、行き場を失い、覆われた闇の中に置かれている。家族であっても話せない、いや家族だから話せない。さらには、相談したい家族が崩壊してしまっていることもある。

本書には、この「ドア」を開けた女性のドキュメンタリーが漫画で描かれている。相談窓口では、彼女たちの話を聞くだけに留まらず、まず寄り添い、問題を整理し、安心して妊娠を継続できるようかかわる。必要があれば、「里親制度」や「養子縁組」の道筋も立ててくれる。小さないのちがひとつも潰えないよう、良い選択ができるよう、あらゆる手を尽くす。

漫画によるストーリー展開や、コラムの内容には、本書のテーマに触れてこなかった人、関心のない人、もしくは、このようなテーマに怖さを覚える人への配慮がある。どうにかして伝えたいという工夫が、本書のテーマに近づく読者のハードルを低くしてくれている。この「ドア」の先にある、小さないのちへの愛のまなざしが、本書全体から溢れている。