書評Books シャローム研究の名著が、ついに邦訳に!

日本ホーリネス教団・鳩山のぞみ教会 牧師 宮崎誉

『シャローム・ジャスティス 聖書の救いと平和』
ペリー・ヨーダー 著
河野克也/上村泰子 訳
四六判・定価2,530円(税込)
いのちのことば社

ついに『シャローム・ジャスティス』が発刊されたことを、非常に嬉しく感じます。著者のペリー・ヨーダーは、私が米国インディアナ州にある合同メノナイト聖書神学校で学んでいたとき、親しい交わりをいただいた恩師です。旧約学者としての視点の深さと鋭さにいつも感銘を受けていました。

この書物は、平和に関する聖書神学の書としては、一九八七年に初版が刊行された当時、先駆けの研究で、旧約聖書のシャロームを、救済論として位置付けて、正義と平和、そして救いを含む複合的な意味として理解します。シャロームの三つの特色を、①物質的繁栄、②公義、③道徳的な率直さ、と描写します。その中で、②公義がシャロームの中心的な役割で、それが書名となった「シャローム・ジャスティス」の意味です。

第八章に「シャローム対シャローム」とタイトルのついた章があり、国家的シャローム(秩序安定)と、預言者的シャローム(社会の不正義を正す公義)が、ぶつかりあっていると語ります。預言者エレミヤの言葉で、「『平和だ、平和だ』と言っている。平和のないところで」(エレミヤ六・一三~一四、RAVより)。尊厳が踏みにじられ、弱者が搾取されていても、権力者側の者たちは気にもとめず、「平和だ」と、自分たちの安定を喜ぶのですが、公義を使命とする預言者は「平和のない」現状を訴えるのです。

ペリー・ヨーダーは、今日の社会におけるシャローム・ジャスティスの意義を記します。執筆時に滞在した独裁政権下のフィリピンで、経済的格差で苦しむ人々にシャローム・ジャスティスが、どのように新しい社会を形作る可能性があるか。富の再分配や、貧しき者を支える福祉社会を形成するため、偽りの安寧が崩されて、義が形作られる必要性があることが語られます。

また、翻訳者の河野克也氏と上村泰子氏によって、非常に読みやすい和訳として仕上がっていることに感謝いたします。この書を通して、シャローム・ジャスティスが、世界で実を結ぶことを心より願っています。