書評Books 新しい人間関係への招き

  カンバーランド長老キリスト教会・あさひ教会代務者
日本聖書神学校教授 荒瀬牧彦

『いのちにつながるコミュニケーション
和解の祝福を生きる』
富坂キリスト教センター 編
A5判・1,980円(税込)
いのちのことば社

この本を読んで、自分の現実とはかけ離れた難解で観念的な話だと思う人は、まずいないでしょう。誰もが日常的に経験する人間関係上の問題が、わかりやすく語られます。第一章には、家族や職場や教会での十四の物語が紹介されているのですが、私にはそのすべてが自分の経験上思い当たるものでした。

ある物語では、奉仕に思い悩んだ一信徒が教会を離れていきます。過去の痛みを思い起こしつつ読みましたが、何が起こっていたのか、何が必要だったのかを考える視点が解説によって示されました。また別の物語は、受け入れがたい相手を前にした登場人物が、自分の感情や自分が本当に必要としていることを見つめることで、相手の心の声にも近くなっていき、意識や言葉が変わり、新しい関係に進んでいくというプロセスを示します。

自分の論理や感情だけで突っ走ってしまう私ではこうはいかないと思いつつ、しかし、まったく不可能ではない。非暴力コミュニケーション(NVC)を身に着けて「ニーズ」や「共感」や「自己共感」に自分を開いていくなら、この私にだって今までとは異なる関係が待っているのだと、期待を抱かせてくれました。

とてもわかりやすい本です。でも、浅い本ではありません。コミュニケーション技術の単純なハウツー本ではありません。神の創造と人間への神学的理解、そしてすべての人のうちに働く聖霊への信頼に立った霊性の理解が土台に据えられています。その土台から、たとえば人間の「ニード」とは「深い願い」であり、「大切にしていること」、「価値」、「美しい意図」、「互いの中にあるいのちの流れ」なのだと解釈されていきます。

三章と四章は、聖書のいくつかの重要箇所を、生きた人間関係の回復という視点から教会の仲間とともに読み直す、良い手引きとなるでしょう。私たちは和解の祝福を生きるよう招かれているのだから、「いのちにつながるコミュニケーション」の練習を積み重ねていこう。そう心を動かされました。