泣き笑いエッセイ コッチュだね!みことば編 第20回 親バカ子バカ

朴栄子 著

 

 

「岩の裂け目、崖の隠れ場にいる私の鳩よ。私に顔を見せておくれ。あなたの声を聞かせておくれ。あなたの声は心地よく、あなたの顔は愛らしい。」(雅歌2・14)

昨年の夏、ユーチューバーになりました!

えへへ、半分ほんとうです。オモニの動画「タミちゃんねる」を開設したのです。今のところ技術がないので、スマホで撮影したものを、アップしているだけです。まだよちよち歩きのチャンネルですが、視聴回数を増やすコツや動画編集などを、スキマ時間にちょこっと勉強中です。

なぜこれを始めたのですかと、複数の方から質問されました。理由はいくつかありますが、トップにくるのはやっぱり、かわいいから! だから多くの人に見てほしいというのが、素直な気持ちです。子どもが生まれると愛おしくてたまらず、親は写真を撮りまくるものでしょ? その気持ち、わかるわかる!

つきものが落ちたかのように、介護のイライラや疲労感がなくなってから、せっせと撮影するようになりました。きゃあかわいい。すごい。こんな貴重な瞬間を記録しておきたい。

視聴した方からは、お母さんと仲睦まじくていいですね、優しい保育士さんか介護士さんのようですね、とコメントをいただきます。感謝です。

第二の理由は、自慢したいから。オモニとこんな関係になったことに、何より驚いているのは自分自身です。この平安な日々は人徳でも努力でもなく、天からのものです。
認知症という現実を受容できるようになるまでは、イライラして物に当たったり、自分の頭を叩いたり、声を荒げて叱ったりするのがやめられませんでした。ニュースで目にする介護がらみの事件が、とても他人事とは思えません。

タダで受けた恵みなので、どんどんシェアしたい。仕事や介護や育児、その他のストレスで苦しんでいる方を少しでも励ましたい。人をこんなふうに変えてくださる神さまって、なんてすごいのという驚きを、間接的に伝えたい。そう、誇りたいと思うのは他の誰でもなく、わたしを変えてくださった方。

互いに慕い合うおとめと若者の愛の詩である雅歌には、読むほうが照れくさくなるような、甘いことばが満載です。「最も美しい人」「わたしのもの」「心を奪う」「なんと麗しい」「すべてがいとしい」などなど。
この詩は、イスラエルと神さま、またわたしたちと神さまとの関係を表現していると言われます。とはいえ、アツアツの恋人同士のように神さまを慕い求め、また自分が求められているとは、正直言うと本気で思ってはいなかったのです。神さま、ゴメンナサイ。

でも、いまはわかります。毎日毎日、オモニの顔を至近距離でのぞきこみ、体調や気分やそのほかの変化を観察します。そのたびにしみじみ思うのは、なぜこんなにも愛らしいのかということです。

日々多くのことを教えられます。たとえば、いまはもう一人でベッドから起きて立つことも、歩き回ることも、会話もままなりません。娘だけが頼りです。次は何をしてくれるのかな、美味しいものをくれるかな。そんな期待のこもった目でじっと見つめています。あーんと口を開けて、与えられるものは何でも良いものだと疑いません。全面的に信頼するって、こういうことかとハッとさせられます。

何より驚くのは、内側から泉のように愛が湧いてくることです。

以前は脳トレや日常動作が一つでもできると喜び、できないとがっかりしました。いまはもう、そんなことで一喜一憂しません。あばたもえくぼ状態で、何をやってもカワイイ! できるとかできないとか、そんなことはどうでもよくなりました。存在そのものが、愛おしいのです。 

ああ、わたしって、神さまにこんなにも愛されていたのか。知らなかった! 知っていたはずだけど、全然わかっていなかった!

タミちゃんにぞっこん、子バカになってみて初めて気づきました。神さまって、相当な親バカです。子どもに惚れて惚れて、惚れちゃってもうデレデレです。目じりが下がりまくっています。
うん、うん、わかるな。オモニのほっぺをつつきながら、ゴーゴーと大きないびきを聞きながら、服を着替えさせながら、ひとりニマニマしています。

在日大韓基督教会・豊中第一復興教会担任牧師。1964年長崎市生まれの在日コリアン3世。
大学卒業後、キリスト教雑誌の編集に携わる。神学修士課程を修了後、2006年より現職。

*「コッチュ」は韓国語の「唐辛子」のこと。小さくてもピリリとしたいとの願いを込めて、「からし種」とかけています。