書評Books 日本文化の中に、福音の宝探しをする思索の旅へ

文筆家 宮葉子

『砕かれた葉 アメリカ人が日本で見つけた芸術・生活・信仰』
ロジャー・W・ラウザー 著
B6判・定価990円(税込)
いのちのことば社

オルガニストであるロジャーさんの企画による「バッハ祭り」で、信仰者バッハについて熱く語る著者の姿を見たことがあります。時代を超えて受け継がれてきた文化への敬愛と好奇心旺盛な眼差しは、十六年前に米国人宣教師として来日して以来、日本文化にも注がれてきました。

著者の手にかかると、日本は、福音の宝を探す豊かな鉱脈を持つ、最良のフィールドに思えてきます。コロンビア大学で応用物理学を専攻した著者にとって、世界はすべて宝探しの現場なのかもしれません。

この小さな本には、茶道や箏など代表的な日本文化の中で発見した、福音の表現体験と考察が凝縮されています。著者はとりわけ、「壊れ」「傷」「弱さ」など、一見マイナスだと思われる状態に惹かれます。

表題となっている「砕かれた葉」は、一服の抹茶に、壊れた美を見いだします。茶葉は砕かれることで薬としての癒やしの力を生み、それを立てることで味と香りが届けられます。千利休の好んだ黒い楽焼は、創作工程で自然に入ったひびをそのまま用います。それを利休が、「自分の弱さを認識することの象徴」であると捉え、さらに福音の味や香りを届けるために、イエスが十字架で砕かれたことへと思索を深めます。

壊れた器を黄金でつなぎ、新たな美を生む金継ぎ。「傷ついた木が流した樹液」で守られた漆器。他にも真珠、香道など、十の文化が取り上げられています。各章に福音と文化を考える質問が掲載され、グループでの分かち合いにも活用できそうです。

今、和の習い事が日本人にも人気です。私は煎茶道を習っていましたが、神仏行事との関わりを躱すのが億劫で、少し距離を置くこともありました。けれども、福音の宝探しの旅とも言える本書に触れて、伝統的な日本文化をも尊重し、そこに普遍的な愛のことばを語られる神の笑顔を垣間見たように思います。新たな視座から、もう一度、一服のお茶を心を込めて立ててみましょうか。