書評Books 「喜びに満ちた正義」の実現を目指して

 

ワールド・ビジョン・ジャパン教会担当コーディネート 長下部穣

『聖書の正義 イエスは何と対決したのか』
クリス・マーシャル 著
片野淳彦 訳
B6判・定価1,430円(税込)
いのちのことば社

本書は、メノナイトの伝統に立つニュージーランドの新約聖書学者による、「正義」の聖書的考察書である。著者は、犯罪や紛争の加害者と被害者の間の対話による正義の実現を目指す、いわゆる「修復的正義」の研究者であり実践家でもある。

第一章で、著者は社会における正義の理解がいかに曖昧であるかを指摘し、信仰者として、その明確な理解を聖書の中に見出すための準備を整える。第二章では、正義の概念と、「シャローム」など、私たちに親しみのある概念との関連を紐解きながら、正義は、実は、聖書の中心的なテーマであることを示唆する。その上で、第三章においては、聖書的正義は、社会的弱者の基本的なニーズを取り戻し、人間の尊厳と自主性を妨げる構造悪の修復に取り組むことと定義される。第四章では、聖書的正義に生き、不正義と社会悪を糾弾し、代替の社会のシステムを提唱したイエスの信仰に目を向けさせている。

読者は、本書を読み進めながら、次第に、修復的な正義に関心をもち、また、その正義の実践に関わりたいと思うに違いない。なぜなら、聖書を生きる指針とする者として、社会的弱者の支援や不正の構造の変革に関わることは、ごく当たり前の自然な姿であることに気がつくからである。

キリスト教精神に基づき「正義の追求」を使命の一つに掲げて活動する国際NGOで働く者として、とりわけ印象に残った表現がある。「喜びに満ちた正義」という表現だ。社会一般では、正義と聞いて、「力」や「怒り」などの感情をイメージすることが多いかもしれない。しかし、そのような一般の理解とは異なる表現を通して、何千年も前に書かれた聖書の教えが、現代の社会に新しい視座を与えうることに改めて感動を覚えた。

不正と出会ったとき、私たちは、加害者や抑圧者の糾弾か、事態の根本的問題の修復か、どちらに中心的な関心をもつべきなのか。本書の語る「喜びに満ちた正義」は、混沌とした社会に生きる私たちに、そんな問いを突き付けているのではないだろうか。