ヘブル語のススメ ~聖書の原語の世界~ 7回目 一文字の品詞の話

城倉啓

1969年、東京生まれ。西南学院大学神学部専攻科修了後、日本バプテスト連盟松本蟻ケ崎教会の牧師就任。
2002年、米国マーサ大学マカフィー神学院修士課程修了後、志村バプテスト教会牧師を経て、現在、泉バプテスト教会牧師、東京バプテスト神学校講師。

今回はたったの一文字から成る品詞を学びます。冠詞の、前置詞、接続詞です。
重要な情報です。ヘブル語の単語は、一文字では存在しません。必ず次の単語と結合します。つまり、一文字の冠詞や前置詞や接続詞は、必ず次の単語と結びついた形で登場するのです。ヘブル語の単語は、たとえ一単語であっても複数の品詞から成る場合があります。

私たちのミッションは「辞書を引く」ことです。辞書の見出し語を探る作業において、単語の前に文字が付け加わる現象(接頭語)は厄介です。辞書の見出し語の語頭が、どの文字かがわかりにくくなるからです。しかし、大丈夫です。あらかじめ、語頭にくっつきやすい五文字を知っていれば、すぐに察しがつくからです。それはの五文字です。

この五文字が単語の冒頭にあるときに、まず一文字の品詞ではないか、と疑うことが必要です。この種の疑いは、不信仰ではありません。

①冠詞の
冠詞とは、名詞の語頭にくっついて、その名詞が特定されていることを示す記号です。冠詞がなければ、世の中のどこかに存在する「王」(a king)ですが、冠詞が付いていれば特定された「その王」(the king)となります。

ヘブル語の「王」はという単語です。これに冠詞がついて「その王」となると、となります。を見たら、冒頭の, の中にある強ダゲシュを切り離し、,を取り出してから辞書を引くのです。と、短母音のa音と、強ダゲシュ、この三つが冠詞の目印です。この目印を見逃さないことが暗号解読のコツです。ことほどさように強ダゲシュは重要です。
(Ⅱサムエル五・三等)は、ダビデという特定の王を指す表現ですが、冠詞はしばしば日本語に訳出されません。

②前置詞の
前置詞は名詞の前に置かれ、名詞と一体となってその他の単語を修飾します。前置詞の使い方は英語とよく似ているので、中学時代の英語を思い出してください。

は英語のinとほぼ同じです。おっと、語頭だから弱ダゲシュが付いていますね。は「~の中に」「~において」「~で」あたりの意味です。という一つの単語に出くわしたときに、を切り離してで辞書を引きます。

ご存じ、民族名「イスラエル」です。ということは、この一単語は「イスラエルにおいて」という意味になります(申命三四・一〇参照)。

は英語のasとほぼ同じです。「~のように」「~として」「~のとき」といった意味範囲。 という一単語に出くわしたときに、K]を切り離してhv,møで辞書を引きます。人名「モーセ」です。

そこでこの一単語は「モーセのように」という意味になります(申命三四・一〇参照)。旧約聖書の申命記三四章一〇節前半は六単語から成る一文ですが、そのうちの二単語の意味が解読されました。

「モーセのような預言者は、もう再びイスラエルには起こらなかった。」

みなさまは今現に、旧約聖書を原典で読みかけています。おめでとうございます。

は英語のto、forと重なりつつも、より広い意味を持っています。「~に」「~のために」「~に属する」「~による」などの翻訳がありえます。は、から成る一単語です。は「ダビデ」としか訳せません。問題はとの組み合わせの翻訳です。

は、旧約聖書の詩篇二五篇などで多数登場する、詩の表題を表す表現です。日本語諸訳は「ダビデによる」(新改訳等)、「ダビデの」(新共同訳等)の二つに大別されます。しかし、「ダビデのために献呈された詩」という考え方もありえます(Douay-Rheims The Holy Bible)。ダビデのために献呈されたので「ダビデに属するダビデのもの」とされた詩歌があるかもしれません。

③接続詞の
接続詞は文と文、単語と単語を結ぶ品詞です。一文字の接続詞は、英語のandとほぼ同じ用いられ方をします。つまり、文と文をつなぐ場合は「そして」という意味です。さらに単語と単語をつなぐ場合には、「と~」になります。という聖句の場合、はそのまま辞書を引くことができます。しかし、には一工夫が必要です。接続詞w“を切り離してで辞書を引くのです。この二単語を「ナオミとルツ」と訳します(ルツ一・二二)。