書評Books 静かで深い、魂の遍歴

西日本福音ルーテル教会・青谷福音ルーテル教会 牧師 前川隆一

 

『過去から永遠へ ワンゲリン自伝』
ウォルター・ワンゲリン 著
内山 薫 訳
B6判 1,600円+税
いのちのことば社

 

「『過去は永遠なる恵み』―一牧師の『告白録』」と題して、神戸ルーテル神学校教授の橋本昭夫氏があとがきを書いておられます。「告白録」とはまさにそうで、ワンゲリン氏の魂の遍歴の記録となっています。

ワンゲリン氏はあの『小説聖書』の著者として有名ですが、ドイツ系聖職者家系四代目の牧師であることを、私は初めて知りました。

ですから、その魂の遍歴は、「ヤクザ」から「牧師」へといったダイナミックなものではなく、「疑い」から「信仰」へという静かで深いものです。

また、「疑い」から「信仰」へと転換していく過程も、ノンクリスチャンの方が読むと、「あまりにも飛躍しすぎでは……」と思われるような内容であるかもしれません。けれども、信仰者には、「聖霊による飛躍」とうなずかされる内容となっています。

その後、ワンゲリン氏は学位を取得、文筆こそ自分の本分との自覚を強めていきますが、これも「聖霊の導き」により教会の副牧師となります。

ところが、折しも氏の属している教団立の神学校で、歴史批評的聖書解釈に立つ教授たちが保守的な立場から批判され、罷免されるという嵐が吹き荒れるような出来事が起こります。

氏は、「神学的根拠が理解できない」と、教団と袂を分かちます。そんなこんなの紆余曲折を経て、かねてより交わりのあった黒人主体の「グレース・ルーテル教会」からの招聘を氏は受け入れ、スラム街に住む人々とともに伝道、牧会、教会を建て上げていく歩みへと踏み出します。

それは、スラムで伝道、牧会することは、「下ることではなく上ることである」と知らされていく歩みでした。

第一三章に、こんなくだりがあります。「私は問題を抱える人々をカウンセリングした。……その中で私は有効な方法を学んだ。それは、人々が悲しみを整理するため時間と沈黙を必要とするときには、自分の注意をパイプに向け、それにタバコを詰めることだった」(本書一二八頁)。

自分が魂の遍歴の中のどのあたりにいるのか、パイプの煙の向こうにいるワンゲリン氏からカウンセリングを受けているような、そんな読後感を味わうことのできる本でした。