日常の「神学」 今さら聞けないあのこと、このこと 第14回 教会とご近所

岡村 直樹

 

横須賀市出身。高校卒業後、米国に留学。トリニティー神学校を卒業し、クレアモント神学大学院で博士号(Ph.D.)を取得。2006年に帰国。現在、東京基督教大学大学院教授、日本福音主義神学会東部部会理事、hi-b-a責任役員、日本同盟基督教団牧師。

 

山の中の一軒家に住んでいる人は別ですが、私たちの自宅はほとんどの場合、ご近所さんに囲まれています。住んでいる地域や建物によっては、ご近所付き合いがまったくないこともありますが、町内会の回覧板や持ち回りの世話人といった、ご近所との深い関わりがある場合もあります。

新しく引っ越しを考えるときは、事前に下見に行き、ご近所の様子(ゴミ出しの様子や清掃、不審な家の有無等)をチェックすることや、引っ越しの際にはご近所に挨拶に行き、良好な関係を築く努力をすることは常識となっていますね。

私たちの教会も同様に、ご近所さんに囲まれています。教会はご近所さんとどのような関係性を築くべきでしょうか。まずは、ご近所さんの気持ちになって考えてみましょう。

ある日、自宅の目の前の空き地で建設工事が始まりました。あまり耳馴染みのない宗教の建物が建てられているようです。

完成すると、毎週決まった曜日に人々が集まって集会を開いているようです。建物の中からは、歌も聞こえてきます。もし私たちがご近所さんだったら、きっと不安になるでしょう。

幸い、日本社会におけるキリスト教のイメージはそんなに悪くはありませんが、であっても、やはりご近所さんの中には不安があるでしょう。

そう考えれば、そのような不安を払拭してもらい、良好な関係を築く上でも、教会はご近所からの評判を大いに気にすべきです。

もちろんクリスチャンにとって最も大切なのは、神様からの評価です。イエス様はパリサイ人について、「彼らは、神からの栄誉よりも、人からの栄誉を愛した」(ヨハネ12・43)と言って叱責されました。

しかし一方で、ご近所からの評判の大切さについても聖書は語っています。テモテへの手紙第一には、教会のリーダーに関する教えがありますが、リーダーは「教会の外の人々にも評判の良い人でなければなりません」(Ⅰテモテ3・7)と書かれています。

ローマの百人隊長でありながら、ペテロを通して救われたコルネリウスは、「ユダヤの民全体に評判が良い」(使徒10・22)人でした。

また一時的に目が見えなくなったサウロ(後の伝道者パウロ)は、アナニアという「そこに住んでいるすべてのユダヤ人に評判の良い」(使徒22・12)クリスチャンに助けられました。

クリスチャンはそれぞれの自宅でも、また教会でも、ご近所から良い評判を得ることが大切であることがわかります。初代の教会は、「民全体から好意を持たれていた。主は毎日、救われる人々を加えて一つにしてくださった」(使徒2・47)とあります。

伝道という観点からも、ご近所から好意を持たれることが重要であることがわかります。

では、教会には何ができるでしょうか。近年は福祉事業等に乗り出す教会が増えており、それは大きな社会貢献となります。

しかし残念ながらすべての教会に、そのような事業を始める財源や人材があるわけではありません。「教会と社会貢献」といった大上段に構えたアプローチも良いですが、私たちの教会に今できることは何かを考えることが大切でしょう。

原則となる聖書の言葉は、「人からしてもらいたいことは何でも、あなたがたも同じように人にしなさい」(マタイ7・12)です。

ご近所付き合いの基本は挨拶です。教会堂に出入りする際、いつも見かけるご近所さんがいたら、微笑んで会釈をする。あちらも微笑んで会釈をしてくださるようになったら、「おはようございます」「こんにちは」と声を出してもよいでしょう。

掃除も基本です。まずは、教会の前の道をホウキで掃いてきれいにしましょう。しばらくしたら、その範囲をお隣さんまで少し広げましょう。もちろんゴミが落ちていたら、ちょっと離れていても拾って捨てるとよいでしょう。これ見よがしにするのではなく、誰も見ていなくても続けることが大切です。

教会員が地域のボランティア活動に参加することもできます。教会主催の活動を始めるのもよいですが、できれば地域ですでに始まっている活動に参加するのがよいでしょう。

PTAや町内会の役員といった、人があまりやりたがらない役割を引き受けることもできるかもしれません。(町内会の催しには、時に宗教が関わることもありますので注意が必要です。)

まずは、教会のみなさんで何ができるか話し合ってみましょう。教会内に「アナニア会」「コルネリウス会」といった地域ボランティア・サークルを作って、楽しく活動ができたら素晴らしいですね。

「ローマは一日にして成らず」と言いますが、良い評判も、時間をかけ、コツコツと築いていくものです。