書評Books 円熟したガイドの先にある聖書の新世界

聖契神学校校長 関野祐二

 

『エペソ人への手紙に聴く 神の大能の力の働き』
鎌野直人 著
B6判 1,500円+税
いのちのことば社

 

ルターが「結婚」したガラテヤ書と別世界の、カルヴァンが愛読したエペソ書。深遠すぎて説教者には手ごわく、抽象的で読者には歯が立たないこともあろう。しかしパウロ晩年の獄中書簡エペソ書は、もしやパウロ書簡の頂点/エッセンスか、はたまた集大成か、いやきっとそうに違いないと確信させる手引書が世に出た。

本書の構成はユニークで、ほとんどは全十一編から成るエペソ書の講解説教、その後ろに二編のエペソ書説教がオマケで(?)付いている。関西人の気前よさかと思ったら、このオマケこそ重要なのだ。読者はまず講解説教を丹念に読み進めることで、エペソ書をもれなく味わう。語り口はポイントを押さえた伝統的スタイルゆえ安心感十分で、語り口の小気味よさと心憎さは比類なし。「神の力」「教会」「奥義」などのキーワードを手がかりに、じっくりかみしめながら堅実かつオーソドックスなエペソ書解釈をモノにできるのだ。各編の最後に説教のまとめと適用、勧めがあるから深遠な説き明かしでも、わかりやすい。

これで終わってもいいはずだが、本題はこれから。約十年の時をおいて著者が会得したエペソワールドが、突如眼前に広がるのだ。背後には近年とみに注目を集める二人のライト、クリストファー・J・H・ライトとN・T・ライトの姿が見え隠れする。木に竹を接いだ援用とは無縁の、これぞエペソ書が本来伝えているテイストであり、メッセージだったのだ、と感動をもって納得させられる解釈。悔しいけれど、これまでの自分のエペソ読みがいかに浅く狭かったかを痛感させられる。著者は旧約学者だが、一瞬旧約から新約に入ったかのような錯覚に陥った。そう、旧約あっての新約、地味な伝統的解釈あっての、円熟した鎌野ガイドに導かれる新世界なのだ。

聖書本文を味わい、手引きで理解を深める一粒で二度おいしい十一個のキャラメルに二個のオマケ付き。プラス二個を目当てに買うのもよいが、本体あってのオマケですよ。天地を一つにする神の大能の力と宣教に参与するため、最初から最後までしっかり味わってください。