~Daily Light~第8回 すいか

石居麻耶 Maya Ishii

千葉県出身。アーティスト。画家。イラストレーター。東京藝術大学大学院美術学部デザイン専攻描画造形研究室修了。

 

大学卒業後の個展やグループ展等の展覧会やホームページ、ブログで発表した作品をきっかけに本の装画、週刊誌、文芸誌、新聞連載のイラストなどの仕事を担当。

いただいた初物のすいかを切ります。入道雲の見える晴れた空には、すいかがよく似合うなと思いながら。透明感あるみずみずしくすっきりと甘いすいかを食べていると、夏の記憶の糸がほぐれ、それらを手繰り寄せると心の水脈につながっているものもあります。遠いことからつい最近のことまで。

すいかを食べていると、物事を新鮮にとらえようとする時のことを思い出します。青々とした草の生い茂る予感や夏の深く青い空の色とか、夜空の星を見上げた時や台風の前触れの空のこととか、いくつか淡くなった思い出だとかに、いきいきとした原色の色彩をよみがえらせます。それはただ懐かしむとか、時の流れを惜しむということとは違って、今という時の鼓動を聴くことに近いと言えるでしょうか。別な言い方をすれば、心に水脈のようなものがあって、そこを流れる川があるとしたらその川の音が聞こえてくる、ということなのかもしれません。

丸くて大きなすいかには、真っ赤な色と爽やかな甘さと水分のほかにも季節の記憶が詰まっているのです、きっと。思い出の品は古くなったり、朽ちてしまったりして残すことのできないものもあり、変わってゆくものもあります。けれども大切なのは、いかにして記憶の糸を丁寧に紡いでゆけるか。

静かな水の底にある太陽の記憶と、花火のように弾ける時間のことをそっとすくい上げて眺めてみるのは、決まって夏の終わりのことです。
ゆっくりと引き出しをひとつ開けてみました。

小学生の頃、春に転校したあと、前の学校の友だちから手紙が届いたことがありました。それは確かに、夏の日の出来事だったのです。

「遠い国からの良い消息は、疲れたたましいへの冷たい水。」
(箴言25章25節)