泣き笑いエッセイ コッチュだね!第5回 愛しのタミちゃん

泣き笑いエッセイ コッチュだね!
#更年期 #うつ #親の介護 #教会のピンチ #牧師の孤独 #みことばの黙想 #おひとりさま #トンネルを抜ける #オトナの坂道 

朴栄子 著

 

第5回 愛しのタミちゃん

「タ~ミちゃん、お・は・よ!」
毎朝、節をつけて歌いながら部屋に入って行きます。昨年八十八歳になったオモニ(母)を、いつしか名前で「タミちゃん」と呼ぶようになりました。
わたしたちには、ふたりだけに通じる擬音語や歌と踊りがたくさんあります。
一緒に歩くときには賛美をすることもあるし、イチニイチニと声をかけることもあるし、ただのんびり歩くこともあります。会話がなくても、日々の暮らしにはさんさんと太陽が降り注いでいます。夢のようです。

様子がヘンだな、もしかして、と思ったのは四年ほど前、冷蔵庫が空っぽだったのを見つけた時でした。

料理上手でマメな人でした。八十ぐらいまでは高齢者との自覚がなく、デイサービスを近所の人に勧められると、失礼な話ね、とプンプン怒っていました。

アボジ(父)と一緒に四十六年、教会のことだけをしてきました。老々介護だと笑いながら、ふたりで教会のお年寄りの面倒を見てきました。アボジが天に召され、近所に住んでいた仲良しのハルモニ(おばあちゃん)も逝ってしまうと、日中はひとりで話し相手もいなくなってしまいました。働き者でじっとしていることがなかったのに、所在なく突っ伏している姿を見かけるようになりました。

姉からは、検査を受けてみたらと勧められていました。でも万が一、認知症だったらかわいそうだと、無知ゆえに遅れたのです。申し訳ないことです。

結果は、レビー小体型認知症の初期でした。わたしがうつのトンネルに入っていくのと、ほぼ同時期でした。薬を飲ませてもほとんど効果もなく、不安でいっぱいになりました。何とかしなければ、と焦る気持ちがよけいにイライラを募らせます。出かけるときには、一から百まで数えさせたり、掛け算をさせたりしながら歩きました。

 オモニが歩くスピードは、わたしの三倍ぐらい遅いのです。その歩調にどうしても合わせられず、ちょっとでも有意義なことをしようと早歩きでダーッと先に行き、また戻って来るのを繰り返していました。

夜、お薬カレンダーをセットするとき、部屋のカーテンを開け閉めするとき、朝も夜もわからなくなったオモニを見ると、言いようもない虚しさに襲われます。

今も思い出すのは、日付と曜日がわからなくなってきたころのこと。何度確認をさせても、翌日の分まで飲んでしまうのです。叱ってもしょうがないということはわかっていても、これ言ったでしょう! 何でできへんの! これはダメでしょう! そう言って声を荒げてしまうこともしょっちゅうでした。ハッとして、隣家に聞こえてしまったかもと恥ずかしくなったこともあります。
「優しくできなくてゴメンね」
ベッドに並んで座って、謝って一緒に祈る。次の日も、キツく当たっては自分を責め、また謝る。同じことの繰り返しでした。

勇気を出して正直に告白します。お尻を叩いてしまい「痛い!」と言われたことも、数回ありました。そうです。孝行娘なんかじゃありません。わたしの動作にビクッと反応するのに、何度も気づきました。
ああ、なんてこと。母親を怖がらせるなんて。
トイレの介助も必要になってきます。尊厳にかかわることですから、失敗しても絶対に責められません。わかっています。でも、やりきれないのです。
あんなにしっかりしていたオモニ。頭が良く優しくて尊敬するオモニ。そのオモニがこんなになるなんて……。

胸が詰まりそう、頭がカーッとして爆発しそう。ワーッと叫んだり、やけくそで「感謝します!」と怒鳴りながら足で床をダンダン蹴ったり、自分の頭をバンバン叩いたりしました。
オモニには何が起こっているのかわかりません。少なくとも、娘が平安でないことはわかるので、何とも言えない表情でした。

アボジの次はオモニ。ふたりを看取るのがわたしの人生なのかしら。姉妹のなかでわたしだけ結婚しなかったばかりに、貧乏くじを引いた。わたしは、食事と掃除・洗濯・トイレの往復で、コマネズミのように働いて、働いて、働いてそれだけなんだわ。
アラフィフのシンデレラよろしく悲劇のヒロインになっていたので、介護は実に重い足かせでした。そんなわたしの目からウロコが落ちたときのことは、次回。

「私の敵よ。私のことで喜ぶな。私は倒れても起き上がる。私は闇の中に座しても、主が私の光だ。」(ミカ7・8)

在日大韓基督教会・豊中第一復興教会担任牧師。1964年長崎市生まれの在日コリアン3世。
大学卒業後、キリスト教雑誌の編集に携わる。神学修士課程を修了後、2006年より現職。

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