日常の「神学」 今さら聞けないあのこと、このこと 第3回 共同の祈りとは?

岡村 直樹

横須賀市出身。高校卒業後、米国に留学。トリニティー神学校を卒業し、クレアモント神学大学院で博士号(Ph.D.)を取得。2006年に帰国。現在、東京基督教大学大学院教授、日本福音主義神学会東部部会理事、hi-b-a責任役員、日本同盟基督教団牧師。

 

「祈り」とは、神様が与えてくださった、神様との大切なコミュニケーションの手段(方法)です。難しい呪文も、複雑な儀式も、特殊な道具も必要ありません。いつでも、どこでもすることができ、そして正直に、どんなことでも祈ることができます。言葉にならない心のうめきのような祈りでさえ、神様は聞き届けてくださいます。朝や夜、他の人のいない静かな場所で聖書を開き、神様の言葉に目を留めつつ、自分の罪を悔い改め、感謝をささげ、自分や他者の必要を正直に祈る。クリスチャンにとって本当に感謝な、そして至福のひと時ですね。

「祈り」という言葉を聞くと多くのクリスチャンは、まずこのような「ひとりの祈り」を思い浮かべるかもしれません。キリストご自身も、「あなたが祈るときは、家の奥の自分の部屋に入りなさい」(マタイ6・6)と、「戸を閉めて」ひとりで祈ることを奨励されました。

しかし教会には、「会衆祈祷」とも呼ばれる、複数の人が参加する「共同の祈り」があります。礼拝の中での牧師の祈り(牧会祈祷)、礼拝司会者による祈り、献金(感謝)の祈り、礼拝の最後の祈り(祝祷、終祷)に加え、祈祷会、食事会、聖書研究会、さらには信者の家庭の中にも当たり前のように「共同の祈り」が存在します。

「共同の祈り」には、神様が与えてくださった、たくさんの大切な役割(機能)があります。若いクリスチャンは、信仰の先輩の祈りを通して祈り方を学びます。必要を満たしてくださいという他者の祈りを通して、そこに自分の知らなかった祈るべき必要があることに気づかされます。感謝の祈りを通して、神様の深い愛や忠実さを確認し、さらにはその祈りから大きな励ましを受けることもあります。

しかし、「共同の祈り」の最も大切な役割は、皆が心を一つにするということかもしれません。聖書にはさまざまな祈りの場面が記されていますが、実はその多くは「共同の祈り」です。旧約聖書の申命記や歴代誌には、イスラエルの人々が、心を一つにして神様に祈ったとき、神様が答えてくださったという記述があります(申命26・7~9、Ⅱ歴代7・14~15)。これは、現代の教会においても同様です。教会で皆が心を一つにして祈るとき、神様がその祈りを喜び、そして聞き届けてくださるだけではなく、愛のある一致(使徒2・42~47)がもたらされます。それはたとえば、文化的背景や個々の考え方に違いがあっても、キリストを信じる信仰において互いに愛し合い、一致するということです。

「共同の祈り」には課題もあります。教会で祈られる「共同の祈り」は、難しいクリスチャン用語を多く用いた祈りや、少々古風な定型文になりがちで、若い人や、特に教会に慣れていない人に対して近寄り難い印象を与えてしまいます。「共同の祈り」は「共に祈る祈り」ですから、共に祈る皆さんにとってわかりやすい、そしてなるべく親しみやすい言葉である必要があります。現代の言葉に合わせて聖書の翻訳が新しく、そして、わかりやすく変わっていくのと同様ですね。「共同の祈り」にとって大切なのは、クリスチャン用語を巧みに操ることでも、雄弁であることでもなく、神様に向けられた心からの祈りであることと、共に祈る人の心が一つになることです。

「共同の祈り」は、人前で祈る祈りですから、中には恐れを感じ、祈ることに尻込みしてしまう人もいます。それは十分に理解できることです。決して祈りを強制することなく、まずは信仰の先輩や祈りのベテラン信徒さんが、率先して良い見本を示しつつ励ましましょう。いろいろな人の、いろいろな祈り、言いかえれば「祈りの多様性」のある教会は、健全な教会であると思います。

確かにキリストは「自分の部屋」で祈ることを奨励されましたが、「共同の祈り」を否定されたわけではありません。キリストは偽善者のする「独りよがりの祈り」や「自分を良く見せようとする祈り」を戒められたのです。そしてこうも語られました。
「あなたがたのうちの二人が、どんなことでも地上で心を一つにして祈るなら、天におられるわたしの父はそれをかなえてくださいます。」(マタイ18・19)

クリスチャンの祈りの最後には、「アーメン」という言葉が付け加えられます。それは「本当に」「そのとおり」という意味で、言いかえれば「一致します!」という告白でもあります。

人のする祈りに完璧な祈りはありませんが、私たちの「共同の祈り」が、しっかりと神様に向けられ、キリストによって一つになろうとする「アーメン」な祈りであるかどうかを常に確認しましょう。