書評Books「脱原発」への現実的シナリオ

ミッション東北・郡山キリスト福音教会 牧師 木田惠嗣

『自然エネルギーが地球を救う 「脱原発」への現実的シナリオ』
牛山泉 著
四六判 1,600円
いのちのことば社

あの東日本大震災から、八年七か月あまりが過ぎた。震災後、福島県キリスト教連絡会の理系大学出身の牧師たちが中心になって、「放射能問題学習会」が立ち上げられ、学習会は三十回を超えた。当初は、相反する情報を正しく判断することができるようにと学び始めたが、学びを重ねるにつれ、こうすれば、原発がなくても十分やっていけるという具体的な提案や、私たちが実践可能な行動について問うようになった。丁寧に、再生可能エネルギーの有用性を説く本書の出版は、非常にタイムリーだと感じた。
著者である牛山泉氏は、エネルギー変換工学の研究者であり、風力発電の第一人者である。また、キリスト者として、見張り人の責任を感じて、「脱原発」の現実的なシナリオを提案しておられる。
「脱原発の主張は国民の大多数が願っているが、立場の違う相手にも届くものでなければ歩み寄りにはつながらない。原発に限らず、あらゆる事象を白か黒かで単純に分ける議論のしかたは、社会の亀裂を増幅するだけである。……この世の中の現実は限りなく灰色であり、キリスト者は信仰に立って、これをいかに白くしていくかに知恵を絞るべき」(五二頁)と書いておられるが、そのとおりである。
福島県は、復興ビジョンの基本理念の筆頭に、「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会づくり」を掲げている。そこには、「これまで、国及び原子力発電事業者は、原子力発電所が何重にも防護策が取られているとしてその安全性を主張してきた。しかし、そうした主張に対する信頼は、今回の原子力発電所事故によって根底から覆り、原子力発電という巨大なシステムを人間が制御することの困難さ、そして、一旦事故が起これば、再び管理できるようになるまでに相当の年月を要し、極めて広範囲に、長期にわたって甚大な被害を及ぼすことが明らかになった」と綴られ、復興に向けた主要政策の一つに、「再生可能エネルギーの飛躍的推進による新たな社会づくり」を挙げている(福島県HPより)。これが、日本全体の標準となることを願ってやまない。