福音理解と宣教のあり方に新たな視点を

聖書同盟理事長 稲垣博史


『福音は何を変えたか―聖書翻訳宣教から学ぶ神のミッション』
福田 崇 著
B6判 1,000円+税
いのちのことば社
五十年以上前のこと、ガリ版刷りの機関紙『聖書翻訳』を手にして、初めて翻訳宣教の重要性に目が開かれた。その『聖書翻訳』を大学生時代に発行し、自ら聖書翻訳宣教師となった福田崇さんがその歩みを通して学んだ「福音とは、宣教とは」を読む者に問いかけるのが、この書である。
著者とは長年の付き合いだが、この書を通して改めて宣教師として生きる現実の厳しさを知らされた。まったく現地語を知らず、到底「文化的」な生活とはいえない環境、さらに太平洋戦争中に日本軍に痛めつけられた経験を持つフィリピン山奥の村で福田さんファミリーがいかに共同体の一員として認められるようになったのか、その体験の記録は興味深い。
著者が属する「ウィクリフ聖書翻訳協会」は、少数言語への聖書翻訳を使命とする宣教団体である。その国の共通言語を理解できたとしても、母語を通して初めて心のひだにまで聖書のことばが染み通っていく。そのためになされる聖書翻訳の作業は気の遠くなるような忍耐と努力が必要だが、翻訳された聖書を通して地域の人々に福音の恵みが及び、教会が誕生し、宣教が前進していく様子に感動を覚える。だが、少数言語への翻訳の意義はそれだけではない。母語での読み書き、教育を手に入れた人々が自分たちの尊厳を回復し、共同体の生活全体の向上につながっていくことを著者は身をもって経験した。
そのような経験を通して、「魂の救いこそ」という福音理解が、魂の面、肉体の面等すべてを含む包括的な福音理解へと深められ、広げられていった過程がよく理解できる。
現在、福田さんの関心と祈りは日本の教会の宣教にある。特にフィリピン教会の宣教のあり方から学んだ福田さんは、高齢牧師そして無牧教会が増えている日本でも「会堂中心、プログラム中心、教職中心」のあり方から、信仰者たちが「今生きている人生、働いている人生、家族と暮らしている人生のすべての領域で、主の弟子・福音の使節」として主を証ししていくことに重点を移すことが鍵だと言う。この提言に耳を傾けたい。