聖書 新改訳2017 どう新しくなるのか?〈6〉固有名詞、詩文の賛美

前回までに述べてきたことから、半世紀近く前に出版された新改訳聖書が、日本語という点で多くの改善の余地があったことを理解していただけたでしょうか。今回は、さらに加えられた変更を、特に固有名詞や文体の問題に的を絞って、新約聖書から紹介したいと思います。

まず、地名、人名などの固有名詞ですが、すべてを再検討し、その結果、皇帝や王を表す言葉や個人名で広く使われているものは、それに変更しました。
例えば、「カイザル」は「カエサル」、「パロ」は「ファラオ」、「アウグスト」は「アウグストゥス」、「テベリオ」は「ティベリウス」となります。
地名でも、広く用いられている一般的な表記を採用することにしました。それで、「ギリシヤ」は「ギリシア」、「クレテ」は「クレタ」、「アジヤ」は「アジア」、「アレキサンドリヤ」は「アレクサンドリア」となります。
「アジア」や「アレクサンドリア」のように、最後が?iaで終わる地名、人名は、これまで「?ヤ」と表示されていましたが、今回は「?ア」に改めました。「マリア」「サマリア」「マケドニア」「アカイア」「カイサリア」などは、この原則に則した変更です。
もう一つの原則は、「子音+iないしy」は「子音+ィ」で記すことです。「テマイの子のバルテマイ」を「ティマイの子のバルティマイ」と換えたのは、それを適用したためです。これらの原則を二つとも適用すると、「フルギヤとパンフリヤ」が「フリギアとパンフィリア」になり、「アンテオケ」は「アンティオキア」になります。

このように多くの変更を加えていますが、その一方で、他の邦訳で変更していても、変えなかった固有名詞が少なからずあります。ペトロでなくペテロ、エリサベトでなくエリサベツ、ファリサイでなくパリサイ、エフェソでなくエペソ、フィリピでなくピリピ。いずれも長年なじんできたもので、これまでの表記を継承することにしました。

『新改訳2017』の翻訳原則の一つは、文学類型にふさわしい文体での翻訳です。新約聖書の場合、これまでも地の文は「デアル体(常体)」、通常の会話は「デスマス体(敬体)」、叱責などの例外的な部分では常体、といった区別がなされてきました。今回の改訂で、さらに心がけた工夫で重要なものは、「賛美」の部分でしょう。一つの例として、黙示録15章3節後半?4節をご覧ください。
この箇所が賛美であることは明白です。しかし、これまでの新改訳では、一字下げしてあるものの、次のように散文のレイアウトで記されていました。

3彼らは、神のしもべモーセの歌と小羊の歌を歌っ   て言った。
「あなたのみわざは偉大であり、驚くべきもので
す。主よ。万物の支配者である神よ。あなたの道
は正しく、真実です。もろもろの民の王よ。
4  主よ。だれかあなたを恐れず、御名をほめたたえ
ない者があるでしょうか。ただあなただけが、聖
なる方です。すべての国々の民は来て、あなたの
御前にひれ伏します。あなたの正しいさばきが、
明らかにされたからです。」

これが、『新改訳2017』では、賛美の部分を地の文と区別し、詩文らしいレイアウトで示すことになります。

3 彼らは神のしもべモーセの歌と子羊の歌とを歌った。
「主よ。全能者なる神よ。
あなたのみわざは偉大で、驚くべきものです。
諸国の民の王よ。
あなたの道は正しく真実です。
4 主よ、あなたを恐れず、
御名をあがめない者がいるでしょうか。
あなただけが聖なる方です。
すべての国々の民は来て、
あなたの御前にひれ伏します。
あなたの正しいさばきが
明らかにされたからです。」

この種の変更を加えた箇所に、ピリピ人への手紙2章6?11節やペテロの手紙第一2章21?25節のキリスト賛歌や、ヨハネの手紙第一2章12?14節の勧めの言葉があります。