特集 ラケットを持った伝道者 世界の頂点をキリストとともに歩んだ選手


本郷台キリスト教会 主任牧師 池田恵賜

一九八九年、世界的スポーツブランド、リーボック(Reebok)社は全米紙に一面広告を打った。そこには短いキャッチコピーがついていた。
「十七歳で歴史を勉強しにパリに行く者もいるが、歴史を作りに行く者もいる。」 そして、全仏オープンを史上最年少(十七歳三か月)で制したマイケル・チャンの優勝写真が大きく載せられていた。
彼は全仏オープンの数か月前に、イエス・キリストを個人的な救い主として心に迎え入れていた。以来、彼はどんなときにも神のことばに従おうと努力していた。優勝インタビューでも、「キリストがともにいなければ私は無に等しい」と言って証ししている。そのような姿勢はメディアからの餌食にもされた。彼がスランプに陥ったとき、「きみの神はどこにいるんだい。負けたときも神のおかげなのか」と容赦ない言葉を浴びせられた。そんな中でもチャン選手は、勝利の願いの祈りはしなかったという。ただ戦えるだけの力をくださいと祈ったというのだ。
全仏オープン四回戦で、当時世界ランキング一位のイワン・レンドル選手と戦った時、また決勝でステファン・エドバーグ選手と戦った時の彼の心の変化も、本書には事細かに描写されている。思わずユーチューブで当時の試合映像を見ながら読み進めてしまった。
本書は、ただテニスだけに触れているのではない。チャン選手の人柄が形成されていった道のり、家族とのつながり、両親からの躾、信仰生活などにも言及している。多くの選手が成功とともに乱れた生活を送るのに、どのようにして自分を神の前に聖く保つことができたのかたくさんの示唆がちりばめられている。また、人生の失望にどのように対処してきたのかも告白されている。スポーツに係わる者だけでなく、子育てしている親にも、また人生の意味を求めている若者にも読み応えのある本となっている。読み終わるころには、チャン選手の半生をともに歩んだような気分になっているだろう。
世界の頂点をイエス・キリストとともに歩んだチャン選手。その歩みは、私たちの信仰と生活に多くの道しるべを立ててくれる。ぜひとも本書を通して、その道のりを辿られることを心からお勧めする。