愛しきことば 第11回 人生はギブ・アンド・ギブ

カリグラフィーアーティスト 松田 圭子

近所の公園にある大きなクヌギの木は、毎年、どんぐりが茶色に色づく前に台風の強い風によって枝ごと折れて落ちています。枝についたゆりかごにどんぐりがしがみついているようで、何ともかわいいものです。
さて今月のことばですが……何年か前に新聞の書籍の広告に“人生はギブ・アンド・ギブ。ギブ・アンド・テイクではありません”とあったのが、とても印象に残っていて、聖書にある「受けるよりも与えるほうが幸いである」に重なると思いました。そしてその広告文は、さらに“惜しむことなく与えると全く別のところからギフトが届く”と続いていました。とにかく人は見返りを期待し与える傾向になりがちです。与えたら忘れてしまうか、「自分がしたいからそうしているのだ」と考えることが良いのかもしれません。
ちょうどそのころ、これからの進路のことで悩んでいた22歳の近所のお嬢さんの相談にのることになりました。ある種のお節介ともとれることですが、本人は本音で話せる人もいなかったようで、本心をぶつけてくれました。彼女は、高校のときに母親をがんで亡くされました。一番の相談相手であった人を失ってしまい、大学も入学してすぐに行かなくなり、翌年には美容学校へと気持ちを切り替えたものの思うようにはならなかったのです。その後、同学年の人たちの就活が始まり、焦りを感じてきたようです。その状況下、私が就職に係わることをお手伝いすることになったのです。とても素直なお嬢さんで、出来る限りのことは頑張ってみましたが、希望する結果にはなかなか結びつかなく、少し投げやり的なところも出てきましたが、何とか正社員として就職することが出来ました。私も自分の娘のように接し頑張ってきたので、これがギブ・アンド・ギブなのかなという感覚もありました。ところが彼女からは、入社日もその後の様子の連絡は一切なく、今年の春ごろには転職したとの話を風のたよりに聞きました。このことは「わたしがしてあげたかったことだから」と心にそっとしまうことにしました。
そして“全く別のところからギフトが届く”は確実にありました!
それは、この「いのちのことば」の表紙を1年間担当することになったことです。