What’s New 映画「ノア 約束の舟」と聖書の「ノア」

礒川道夫
ライフ・クリエイション ディレクター

 聖書の創世記6章8―18節では、主の心にかない、神とともに歩んだノア一族(ノアとその妻、息子たちのセム、ハム、ヤペテとその妻たち)を救うために、神が箱舟を造らせ助ける契約をノアと結ぶ。

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しかし、「ブラック・スワン」「レスラー」を製作した異才ダーレン・アロノフスキー監督は、ノア(ラッセル・クロウ)が「それで今わたしは、彼らを地とともに滅ぼそうとしている」(創世記6:13)という神の意図を曲解し、さらに箱舟の中でも困難な状況があったではないかと考えたようだ。なぜならアララテ山に到着した時に、地上に降り立ったノアが、天幕の中で裸になるほどにぶどう洒を飲んで酔わざるを得なかったのだから(創世記9:21)。
聖書に出てくるアダムとエバの子どもであり、弟のアベルを殺した兄カインの末裔の鍛冶屋のトバル・カイン(創世記4:22)を悪の象徴として登場させて、ノアを、息子ハムを使って殺そうとする。   
この辺りのストーリーは聖書にはないまったくの創作で、トバル・カインがノアの箱舟に乗ってしまうことなどは、保守的なキリスト者には受け入れられないことであろう。
しかし、この映画で描かれている一つの強調点は、人間の罪の問題である。ノアでさえ、これまでの聖書物語や映画に出てくるような聖人君子としてではなく、苦闘しながら、神に従う罪人の一人として描く。そしてところどころに挿入される、蛇によってアダムとエバが禁断の実を食べてしまうシーンや次々に起こる殺戮シーンは、「すべての人は罪を犯した」(ローマ3:23)という聖書の重要な指摘を、これでもかこれでもかと訴え続ける。

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ノアの妻をジェニファー・コネリーに、セムの妻イラを「ハリー・ポッター」シリーズで人気のあるエマ・ワトソンに演じさせて、現代にも通じる家族間の葛藤も描いている。聖書の年齢表記からすれば、ノアの時代にも生きていた祖父メトシェラを登場させ、バラバラになってしまいそうなノア家族の引き止め役として、アンソニー・ホプキンスに演じさせているのも面白い。
そしてダーレン・アロノフスキー監督がこの映画を作った意図を説明しているようにさえ思えるシーンが最後に用意されている。この映画の一見聖書に反するような演出は、聖書の意図を強調するためだったのではないかとは言い過ぎだろうか。
新約聖書でイエス・キリストが、この世の終末はノアの日のようだと語る(マタイ24:37―39)。現代がノアの時代のようだと警告するのには、十分な内容である。

『ノア 約束の舟』配給:パラマウント
6月13日(金)全国ロードショー
(c) 2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

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