向日かおり
シンガーソングライター。2001年ジェフ・ネルソンのプロデュースによる１stアルバム「Presence ーーあなたのそばに」を発表し、以来、日本のクリスチャン・ミュージック・シーンに不可欠な存在として活躍の場を広げ続ける。ジェフ・ネルソンと二人で行なった今秋のツアーでは、その繊細なピアノサウンドに溶け込むような存在感のある素晴らしい歌声を響き渡らせた。

ジェフ・ネルソン with 向日かおり コンサートツアー 2002秋

連日、満員の会衆の中でコンサートを行ったジェフさん（右）と筆者（左）

　「私が奏でる音楽は、楽曲ではなく、神さまへの自由な賛美なのです。」ピアノに向かったジェフ・ネルソンが奏で始めた音楽はインプロビゼーション。「即興演奏」という意味だが、よく知られた曲から、その瞬間に生まれた新しいメロディーまでが、自由な形となってピアノから流れ始めた。光、いのち、湧き水、やさしさといったものが、音になってそこに現れる。

　2002年秋、ジェフ・ネルソンwith向日かおりのコンサートツアーでの一幕だ。関東で４回、関西で６回行われたコンサートは、どれをとっても二度とない時間となった。

　ピアノだけでなく、彼の歌声、ワーシップリードはまるで会衆に吸い込まれていくようだ、と私は思った。「その時、その場での祈りにあわせて」音を奏でる彼は、そこにいる一人一人の魂を心底大切にする。二度とない時間が生まれるのは、その彼の優しさとスピリチュアルな繊細さによるものだろう。会衆はそのスピリットの中でやさしく解放され、神さまに触れる大切な時を得る。忙しさと喧騒に満ちた日常の中で、こんな時間を、みんな求めているのではないか。気がつけば心は癒され、満たされているのだ。

『PRESENCE――あなたのそばに』 　向日かおり　2,600円（税別）
『PRAYER SONGS』 ジェフ・ネルソン　2枚組 2,800円（税別）

　ツアーに同行してくれた友人が、電話でこう彼を称えた。「素晴らしい音楽を聴いたあと、大抵はそのミュージシャンの声や姿が焼きついているものだが、彼は違う。彼の賛美した歌そのもの、もっというと賛美そのものが、何より心に残っていることが大きな驚きだ」と。それは神さまの前に透明でありたい器にとって、最高のほめ言葉ではないだろうか。

　彼の舞台裏は、やさしい笑顔で満ちている。冗談を繰り返し、小さな子どもと遊び、本気で涙を流す。その姿を見ながら私は思った。小さな事を本当に大切にする彼だから、神さまは小さなこの国に遣わしてくださったのだろうか、と。

　「また来年、来ます。」手を振り、繰り返しそう言う彼を見送りながら、神さまが、このすばらしい器を通して、日本を心底愛してくれていることを感じた。

　2003年、彼の約束した新しい年が来る。