草ごよみ 7 ホタルブクロ

ホタルブクロ
上條滝子
イラストレーター

 ホタルブクロは釣鐘形の大きな花がよく目立つ楽しい野草だ。

 ホタルブクロとヤマホタルブクロの違いは五つに分かれている萼の間に上向きに反転する小さな萼片があるのがホタルブクロ、ないのがヤマホタルブクロで、ヤマホタルブクロの花色は全体に濃い赤紫だ。ホタルブクロは白に近い薄紫色で、両方とも斑が花の内側にある。生育環境もそれほど大きな違いはないので、一般にはホタルブクロだけで十分に花の姿は浮かび上がる。

 ホタルブクロはちょうどホタルの舞う頃に咲く山野草で、子どもがこの花にホタルを包んで遊ぶのでこの名が付いたと記す図鑑がある。この花の中でホタルが、ホーッ、ホーッと静かに光るのを想像するだけで、夢を見ているようだ。ホタルもホタルブクロも里山から小川が流れ出し、田畑が広がる風景の中に人の暮らしがあった頃は、ごく普通に身近な昆虫であり、草花であったのだろう。

 私の住む、都市化の進んだ街に奇跡的に残ったホタルブクロの自生地がある。それが風前の灯火で、今年は咲くのだろうかと胸が痛い。長い間、毎年はらはらしながら見守ってきたホタルブクロの群生する浄水場の土手の前に、とうとうこれまでにない大型スーパーが建ち、ビルの裏手は土手際までその店舗の駐輪場、横は駐車場になってしまった。

 本当に、何ということを!

 サンクチュアリの見えない境界線を、経済という魔物がいともたやすく踏みにじっている姿に一瞬涙が出そうになった。