草ごよみ 3 スミレ

スミレ
上條滝子
イラストレーター

 スミレの花のファンはきっと多いと思う。

 なんと言っても小さく可憐な花は野草のなかでもひときわ印象的で魅力的だ。

 日本種のスミレは人里から海浜地や深山まで生育場所が多様で種類も多く、私の持っている野草図鑑には四十一種も記載されている。

 高山に稀少種もあるようだけれど、人里のスミレの幾種類かはごく普通に見られる身近なものだし、そのかわいらしい花からは思いもよらないたくましさもある。

 早春、近所の玉川上水の土手や井の頭公園の自然林の林床には薄紫のタチツボスミレがいっぱい咲き出す。アスファルトやコンクリートですっかり覆われた街中でも、街路樹の根元や石塀と道路のわずかな隙間やアスファルト道路の道端、石の門柱の下、駐車場の隅などにスミレ、コスミレ、ノジスミレ、シロスミレなどが生え育っている所が何カ所もある。

 春になると毎年ちゃんと顔を出すけれど、そんな所のものは花を付けても一つ二つ挨拶程度だったりするけれど、花が終わると葉をぐんぐん茂らせ、ほとんど終年にわたって次々に閉鎖花で種を作り、熟すとピチッピチッと四方に種を弾き飛ばす。一時期そんな種を集めてベランダの鉢で栽培を試みたことがあるけれど、芽は出てもいつの間にか消えてしまってどうにもうまくいかなかった。

 スミレは身近で愛らしく可憐な花だけれど、野の花であることを変えない、しっかり者だ。