草ごよみ 10 ヒガンバナ

ヒガンバナ
上條滝子
イラストレーター

 秋の彼岸の頃に咲くヒガンバナはその昔、稲とともに大陸から伝来した人里の植物だといわれている。

 黄金色に稲穂が色付き田の畦や小川の土手をヒガンバナが赤く染め上げる里の風景は幾世代を経て人々の暮らしが作り上げてきた日本の風土が生んだ秋の姿だ。

 人との関わりが古くからあるので、ヒガンバナには特別たくさんの違った呼び名がある。マンジュシャゲは大陸生まれの証拠のように赤い花を意味する梵語からきているという。私はキツネノタイマツという名がなんとなく童話的でいいなと思うけれど、ほかにジゴクバナ、シビトバナ、シタマガリなど凄みを帯びた名前もある。そのわけは地下の鱗茎にリコリンという水溶性の有毒物質が含まれているからで、田の畦や墓地などによく植えられてきたのは、野ネズミ等の食害を防ぐためだったとされる。けれど摺り下ろしてよく水に晒し、すっかりリコリンを抜けば、きれいな澱粉が採れるので救荒作物だったともいわれている。

 昨年の秋のこと。あるラジオ番組から昔、自作のフォークソングの大ヒットで知られた女性歌手が、「ヒガンバナが咲いていよいよ食欲の秋ですね。新米が楽しみ! ところでヒガンバナの根っこの方のお芋のようなのって食べられるんですね」と明るいおしゃべりが流れてきた。あらら……と私も思ったが、たちまち全国から「毒です!」「食べちゃダメ!」「とんでもない」と電話が殺到したそうで、番組の終わりに、ごめんなさいと謝っていた。

 表紙のイラスト 『街草みつけた』(東京新聞出版局)より