福祉を通して地域に福音を 第1回 教会を拠点にしたデイケアセンターで


佐々木炎

地域に住む人々の人生に関わる教会であるために

 川崎市郊外にある中原キリスト教会は、日曜日と水曜日は礼拝と祈祷会を行い、その他の日はデイケアセンター「ホッとスペース中原」となります。私は、この教会の牧師を務めながら、活動の代表として介護の現場に出ています。

 この街で開拓伝道を始めたのは、一九九八年のこと。地域に住む人々の生活や人生に関わり、地域に仕えていく教会であるためにはどうしたらいいのかを考えた末に生まれたのが、この形でした。

 現在、デイケアセンターでお年寄りの通所介護を週に五日間行っているほか、訪問介護(ヘルパー派遣)や居宅介護支援(ケアマネージャー業務)、障がい者のためのグループホームを別の建物で運営しています。また、木曜日には「親子ふれあい広場」を開催し、乳幼児とその母親たちの交わりの場として開放しています。

 ビルの一階に借りている二十坪ほどのスペースには、礼拝の時はパイプ椅子が並びますが、そのほかの日には椅子を倉庫に入れてソファを出し、入浴サービスや、管理栄養士の作る昼食を提供しています。

 なぜ、教会でここまで本格的な福祉活動をするのかとよく聞かれます。福音派の教会では、教会は礼拝や伝道を行う場であって、たとえ福祉活動を行うにしても伝道のためという考え方が強いようです。多くの牧師の方々から「福祉活動でどのくらい信者が増えたのか」と聞かれて残念に思うことがあります。私は、神様は様々な形で福音を伝えると信じています。

福音を語るのではなく、福音を生きるための福祉

 平日の福祉活動では、福音を語るのではなく、福音を生きることを目指しています。福音をことばで伝えるメッセージが日曜日にあり、それがどんなものなのかを実践し、地域の方々と分かち合う場が平日にある。行き場のない高齢者や障がい者、孤立している育児中の母親がここに集い、ここに流れる良いものを感じ取って、それは何だろうと思っていただければ良いのではないか。もちろん、交わりのなかで自然に無言の福音に触れ、変えられてほしいという思いは根底にいつもあります。

 デイケアでは、キリスト教を押しつけることはありませんし、キリスト教以外の信仰を止めることもしません。「○○を信じているあなたを尊重します」という思いで接しています。スタッフである私と、やってくるお年寄りが、まず隣人となる。そして、相手の中に自分と神を見る。神を愛するように、隣人を愛することが基本だと思っています。

実践の中から感じた、教会の使命と役割

 こうした考え方は、浜松の聖隷福祉事業団で福祉について学んでいた時代に培われました。事業団を起こされた長谷川保先生の「あなたの隣人を自分自身のように愛しなさい」という聖書のことばを実践してこられた姿を見て「福音を語るだけでなく現実社会のなかで表現する」という思いが募りました。また、そのとき出会った脳障がいの青年に「私のような人のために働いてほしい」と言われたことも強く印象に残りました。そうしたことが原体験となって、現在の形に至ったと思います。

 この実践の中から、いま教会の使命と役割は三つあると感じています。一つは「個人の尊厳を支えること」、二つ目に「憐れみをもって隣人に関わること」、最後に「地域との共生」です。

 七年後には、四人に一人が六十五歳以上の高齢者になり、その後もどんどん高齢化が進んで二〇五〇年には三人に一人になると推計されています。そのとき教会は、日本人の切実な思いに応えながら福音を共に生きる場となっていてほしいと願っています。

地域の福祉拠点になっている中原キリスト教会



小さな子どもたちと接することも、ここに集うお年寄りの楽しみ