時代を見る目 238 考え直そう、日本 [1] 原発ゼロ社会は不可避の現実

牛山 泉
足利工業大学 理事長兼学長

足利工業大学は明治期に、邪教キリスト教の進出に危機感を抱いた足利仏教和合会が設立した。私は学園唯一のキリスト教徒として、理事長と学長を兼任し、日本で最初の「自然エネルギー・環境学系」を立ち上げた。また、日本風力エネルギー学会を創設し、開発途上国の技術支援なども行っている。

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安倍政権が、2014年4月初めに新しい「エネルギー基本計画」の政府案を発表した。これには福島原発の事故以降、ドイツをはじめ多くの国々が脱原発の方向に舵を切ったという事実、また、世界で起きている自然エネルギーの急速な拡大についても一言も触れられていない。さらに分かりにくいのは、多くの国民が期待していた2030年における電源ミックスの数値の発表を回避したことである。これは日本経済のために原発の再稼動や新増設を進めてほしいという財界や電力業界の意向を反映したためであろう。 
しかし、原子力発電の廃棄物の問題の専門家として原発推進に20年間携わってきた田坂広志氏(現多摩大学大学院教授)によれば、全国の原子力発電所の「使用済み核燃料貯蔵プール」は、10年以上貯蔵できる余力のあるのは4か所のみで、各原発の貯蔵能力は平均6年で満杯になる状況にあり、青森県六ヶ所村の再処理工場の核燃料貯蔵プールもすでに満杯近くになっているという。したがって、6年後には不可避的に原発停止の時代が到来することになる。「核廃棄物の最終処分」については、1960年代から指摘されてきたことであるが、常に問題解決を先送りしてここにまで来てしまったのである。
さらに重要なことは、2012年9月、日本学術会議が内閣府原子力委員会に対して、「地層処分の10万年の安全は、現在の科学では証明できないため、わが国において地層処分は実施すべきではない」と明確に提言していることから、小泉元総理のフィンランド訪問で話題になった、使用済み核燃料の「地層処分」が実施できなくなることである。もし、政府が従来どおりの政策に従って「地層処分」を進めるとすれば、この学術会議の提言に対して「10万年の安全」を説明する責任を負うことになる。
国家戦略は、40年以上経ってもいまだに確立されない核燃料サイクルのように「こうあってほしい」という希望的観測や、「こうなるはずだ」という主観的願望に立脚した政策的判断で決めて、国民に不幸をもたらしてはならないのである。